自由の翼 シャトルの中は、騒然としていた。 「何でこんな事になってるんですか?!」 「そんなの、こっちが訊きたい事だ。連絡は――」 「入ってたら、すぐに伝えます!」 機長の意見に、キラはすかさず反論する。 政務官に呼ばれ、コックピットに連れて来られた彼は、機長や副操縦士と共に、メインモニタに写る光学映像と向き合っていた。 後一時間足らずでプラントに着く――そんな近場まで来て、彼らが見舞われた最大級のトラブル、それは近海で起きている戦闘行為。 ザフトが何らかの軍事活動を行っている。 〈僕達がこっちに来るの、知ってるはずなのに……!〉 どこかしらの筋で与えられるべき情報が、まったく伝わってこなかった。それは極秘案件を外部に漏らさないためか、はたまたこちらが蔑ろにされているという結論か。 「遅れるわけには、いかないのに……」 キラは焦る。このままでは戦闘が収まるまで、プラントに入港できない。 「どうしますか? キラ様……」 「…………」 政務官の言葉に、キラは答えず宇宙を見る。 瞳に、決意の炎を灯して―― -ソラニマウヒカリ- PHASE11−自由の翼 〈絶対、逃がさない〉 それはもう、私怨としか言い表せないような感情だが、ルナマリアは気にしない。受領して一週間で、既に痛々しい姿を経験した愛機を駆り、彼女はデスティニーとレジェンドを追いかける。 〈レイと――シンの機体を悪用させたりしない!〉 二人の大事な少年が消えた。 一人は戦闘中。一人は明確な意思を持って、自分達の前から居なくなった。 彼女にとって、大切な思い出の中にしかいない二人。あの二機は、色褪せさせたくない過去の情景を、汚そうとしている。 〈でも、この座標……〉 ルナマリアは不安になる。ルタから渡された、レジェンドとデスティニーの向かった場所に、疑問を感じているのだ。 本当に、こんな場所にいるのだろうか。 あれだけ自信を持って送ってきた場所だ。確証があっての事だとは思うが―― 「……この、どこに居るって言うの……?」 座標点にたどり着き、ルナマリアは呆然と呟いた。 広がる宇宙の闇。 座標点の示す先にあるのは、プラントの衛星として佇むニ連星の片割、そして彼女が乗っている愛機と同じ名を持つ星――エルザ。 何度も調査団が派遣されているが、別に施設が作られているわけでも、簡易的にでも宇宙ステーションが組み立てられているわけでもない。 浮かぶのは「エルザ」だけ。 「他に隠れられるような場所も無いし……?」 そういえば、と思う。 彼女は思い出していた。カンパニーを包囲しているその後ろから来た、大量の援軍の存在を。 この方角は、彼らが現れた方向と合致する。 「もしかして、この近辺にドゴラのアジトがあるんじゃ……!」 閃き、即座にルナマリアはこの海域を中心に、熱現地のスキャン作業に取りかかった。 探索機能は、MSはおろか、艦隊クラスよりも発達したエルザである。巧妙に隠しても、MSほどの熱源なら、簡単には逃れられないはずだ。 「……そん、な……」 描かれる輪郭に、ルナマリアの目がゆっくり見開かれていく。 熱源の位置を目で確認するため、近海の映像とスキャン画像を重ねた結果、エルザと合致したのだ。 大規模に張り巡らされた、人工物の証。 エルザの中に、何らかの施設がある。 ルナマリアはスキャン画像を頼りに、エルザに向かった。 下方部、探索しても目に付きにくい位置に。 球体を象る熱源の端っこに、少しだけ、細く伸びた「道」らしき場所がある。 「……こんな所に……っ!」 数分かからず、彼女は見つけた。 小さな小さな「入り口」を――…… |