君のこころ




それはミリアリアの覚悟を決めさせる一言でもあった。


「私から、トールを奪わないで……」


ララの本音が、冷静さを増長させる。「奪うな」という言葉が、彼女のミリアリアに対する感情を導き出させた。
ミリアリアにとってはララが「略奪者」でも、ララにとってはミリアリアが「略奪者」という存在なのだと、改めて思い知って。

――だからどうなるのか、と聞かれれば――……どうなるものでもなくて。


「良いじゃない。あなたにはもう……他に男がいるんだから」
「……関係、無いわ」

ミリアリアは言い切る。


「今、ディアッカは関係ない。ディアッカを理由にしないで」


ララは一度たりともディアッカの名を口にしていない。名前も知らないだろう。それでもミリアリアが「ディアッカ」と断言できたのは、彼女の言う「男」に当てはめられるのが、ディアッカしかいないから。
惹かれたのは事実。
異性として見てるのもまた、事実。
それでも越えられない一線があるのもまた、事実。

「話はそれだけ?」
「……え、ええ……」
「なら、もう良いでしょ? トールを連れていくとか、島から離れるとか、どれも私が決められることじゃないわ」

踵を返し、ミリアリアはAAに戻っていく。それをララは止めなかった。
止められなかったのかもしれない。自分の気持ちは伝えたし、言いたいことも言った。それに対して返ってきたのは、あまりに冷静すぎるミリアリアの反応。
まるで諦めとも取れる表情で後姿を眺めながら、ララもまた、AAを後にする。



――否、それはミリアリアも同じか。
ミリアリアも諦めていた。自分がいま抱いている、たくさんの感情を諦めてしまった。
AAに帰る足取りは重い。外の世界から狭いせまい密閉空間に戻る頃には、表情は暗く、堅いものへと変わっている。
「彼」は、そんな最悪なコンディションの時に声をかけてきた。


「短いお出かけだったな」


艦内に戻って数歩。声はなぜか、後ろから響いた。
入り口横――ちょうど入ってくる時には死角化するところに、彼はふてくされた態度で立っている。
ディアッカが、視界に飛び込んでくる。

「気分転換にしちゃ、帰ってくるの早すぎねえ?」
「ディアッカ……」

めまいがする。
今、本当に……ある意味、一番会いたくない相手が目の前に来てしまった。

言い訳なんかできない。

そう考えて――分らなくなった。
誰に何の言い訳をする?
自分に?
ディアッカに?
私はあなたを選べない、と――??



脳が限界を迎える。
視界が、暗転する――



「ミリアリア?!」



出した結論に涙して、ミリアリアは意識を手放した――

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