悩める少年





〈どうして……どうしてどうしてっ!!〉


ミリアリアは混乱していた。考えることが多すぎて、どこから考えれば良いかも分からなくなって、闇雲に艦内を走って……気付くと景色は一変していた。
足が感じる土の感触。それは外に出た証であり、全ての問題から逃げ出すような行動にも思えた。
逃げたい。この世界から逃げたい。

「だからって……どこに行けってのよ……」

行く場所なんてない。トールの元――一瞬よぎった場所も、安住の地になり得る訳もなく。
……再会した直後は、以前のトールと同じだった。けどキラやサイと話始めた途端、別人のように変化した。皆を帰そうとした時……………………引き止めてすらもらえなかった。それは彼女もキラ達「嫌いたくないが許せない存在」側に入れられていることを意味していて。
とても、辛くて。
泣きたくて――

「……ミリィさん、よね?」
「?!」

突如、呼ばれて顔を上げる。
木々に囲まれた細い道上からの声だった。
いたのは女性。トールの車椅子を押していた――「ララ」だった。





〈あーあ……〉


ディアッカは深い後悔の中に居た。何度も思い返し、何度も後悔する。
言ってしまった事実。かといって、撤回することも出来ない現実。気分は下へと向かっていき、彼は大いに肩を落として歩いていた。
その時、声が聞こえた。

「……ールは……どんな気持ちで、オーブの戦いを見てきたんだろう……」

それはキラの声だった。あと数歩で前を横切れるほど側にある、展望室から聞こえてきた声。気配を絶ち、静かに中を盗み見ると、キラとサイの姿を見つけられた。

「どんな気持ちで、戦いの痕を見てきたんだろう」
「そりゃ、悔しいだろう。あの傷はアスランにやられた時のものだろうから……動ける状態じゃなかったと思う」
「……うん」


――アスラン。
たった一人の名前が、大きく重く、心にのしかかる。

「……あいつ、ほんの数回でも戦闘機に乗ってるし、正義感の塊ってとこあるし……きっと、先陣切って守りたかったはずだ」

出来るはずもない。今でさえ車椅子での生活なのに、当時のトールに、自分の意思で身体を動かす力があったか、そこから微妙なところだ。

「でも……これ以上は、分からない。いや、これだって推測だ。もしかしたら全然違うかもしれない。分かろうとしても……きっと本質的に理解することなんて、出来ないと思う」
「そんな……」
「俺達に出来ることなんて、無いのかもな」
「サイ――……けどっ」
「あいつ、最後になんて言った?」

キラの「希望」を否定するよう、サイが言葉を重ねる。

「あいつ……帰れって言ったんだぞ? 俺達を嫌いになりたくないって言いながら……いや、そこは疑ってないけど……今のあいつにとって、俺達は、邪魔なんだと……思う」

口に出して自覚する。気付きたくないことに気付いて、言葉を失う。

「この島に居る限り、俺達に出来ること、なんて……それこそ、島を離れることくらいしか無いんじゃないかな……」
「サイ……」

キラが苦しみに目を細める。ディアッカもまた、やり切れない思いで一杯になった。
こんな弱気なサイを見るのは、初めてだった。少なくともディアッカが見てきたサイは、常に弱い部分を隠そうとしてきた。戦争が終わり、キラとミリアリアの落胆っぷりを間近で見ながらも、平静を装っていたサイが――こんなにも弱さを露呈している。
それだけ威力のあった、トールの言葉。

そんな中、ディアッカは一人考えた。きっかけは、サイの言葉。





「俺達に出来ること、なんて……」





その言葉は、すんなりとディアッカの心に入ってきた。
自分に出来ること。自分が今、出来ること、やるべきことは何だろう――……
ディアッカは、漠然とした「悩み」と直面した。

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