変わる目線




静寂が訪れる。
誰も、何も言うことが出来ない。キラやサイ、マリューにだって反論したいことはたくさんある。けれど……彼らだって感じている。最良の判断が、決して『最善』になり得ない事を。
そんな中、ディアッカは安堵感を抱いていた。この場で持って良い感情ではないかもしれないが、実際、ひどく安心している。


ここに、アスランが居ないことに。


嫌な予感がする。自分が聞いてきた『トール』とは何か違和感を覚えさせる彼の存在は、プラントや父の犯してきた罪、自分の手で奪ってきた多くの人々の未来を思い、そして悩むアスランを、これまで以上に追い込んでしまう――そんな気がして。
事実、彼は友人であるキラやサイを追い込んでいる。ミリアリアにすら、優しい視線を与えたのは最初の頃……三人が合流するまでのことだ。
今、トールの視線はミリアリアを捉えない。彼が見据えるのは……

「結局、何だったんだろうな……俺達のやってきたことって。自分達の理屈だけで戦艦乗ってさ、地上がどんな常態か、ちゃんと知りもしないで戦って」
「……けど、ああすることしか出来なかった。戦争を終わらせるには、あそこで戦わないといけなかったんだ……あそこで、連合に降伏していたら、それこそ……」


それこそ――オーブの戦力を全て連合に奪われ、連合対ザフトの戦いは、もっと凄惨なものになっていた――……


懺悔のように、キラが呻く。マリューもトールを視界に入れたまま、言葉無く見つめている。
最前線で戦っていたキラにとって、AAの指揮をとっていたマリューにとって、トールの言葉を聞くには、痛みを伴う。
そして、それはトールも一緒。

「……それが、許せないんだよ……」

彼は言った。
痛みを堪えながら、自分の思いを正直に、『友達』に伝えた。

「どうしても納得できない。AAがしたこと、連合がしたこと、ザフトがしたこと、オーブがしたこと……全部、納得できないんだよ。正義のためとか、戦争を終わらせるためとか、何だかんだ理由をつけて、戦争を正当化しようとしてる。やってることは同じなのに。
キラを嫌いになりたくない。なる気も無い。でも……許せないんだ。あの暴力を『正当化』しようとするお前達を」

トールの葛藤がそこにある。
彼らがどんな思いで船に乗ったか、軍人になったか……知っているからこそ、庇護したい思いと容認できない苦しみ。
確かに、この道しか無かったのかもしれない。当時の彼らには、戦うことしか出来なかったのかもしれない。
でも――本当にそうなのか。
道は本当に、一つしか無かったのか。
これまでのように、ただ流されて戦ったのではないだろうか。仕方なく戦って、結果がこの仕打ちでは、あまりにも報われない。

「キラ、この島は……俺達はさ、オーブの決断で、生活をめちゃくちゃにされた。その後始末は、ほんの少しの物資支援だけ。そりゃそうだよな。決めた奴が後先考えないで自爆してんだから、二の次三の次にもなるのは分かってんだ。
だから……怖いんだよ。戦艦がこの島にあるって現実が。戦争が終わったって言われてるけど、本当に終わったのか? もし、また戦争になったら、AAがあるこの島は戦場になる……例えならなくても、巻き込まれる可能性は高い。それが心配なんだ。不安で不安で、仕方ないんだ」

だから厄介者扱いされるAAの現実に、ディアッカは心から思う。


――良かった、と。
アスランも……カガリもいなくて、本当に良かった。
今、あの二人に彼の主張を受け入れられる許容があるとは思えず、ディアッカは不謹慎にも、胸を撫で下ろしてしまった。

そして悲しむ。ミリアリアを見て……彼女の悲しみに暮れる瞳を見て――

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