すれ違う意思





生きててくれたことが嬉しくて。
それだけで心が満たされて……だからかもしれない。ミリアリアはその瞬間まで、彼女を――「ララ」という名の女性を、全く気にしていなかった。
気にならなかった、というか。
目にも入らなかった、というか。
微笑み合う二人を見て、初めて気になった。自分よりも年上に見えるスタイルの良い「美人」な女性。
二人は一体どういう関係??
口に出したいが、途端に会話のタイミングを掴むことが出来なくなり、ミリアリアは俯き、膝の上で両手を拳にして、周りの会話に耳を傾ける。
彼らは徐々に、突っ込んだ議題に話を進めていった。

「何にしろ、無事で良かったよ」
「全く……どれだけ心配かけたと思ってるんだ?」
「ごめんごめん。けど俺だって、何がなんだか分からなくて……気付いたらオーブは連合の攻撃受けてるしさ」

背もたれに体重を預けるトールに、サイは呻いた。

「せめて連絡くらいくれよ……」
「だから、取れなかったんだって」




――違うだろ――

喉元まで出かかった言葉を、ディアッカは何とか飲み込んだ。自分が口出しして良い場ではない。そう分かっているからこそ、ディアッカは言いたいことを全て我慢している。
違う。連絡は取れた。車椅子生活を強いられているらしいトールだが、ミリアリアを見た時、驚きはなかった。つまりこの島に「居る」ことを「知って」いた。
戦場に出ている船と交信するのは難しくても、同じ島――しかも何回も村に足を運んでいる人間をつかまえて無事を報せる、ということくらいは出来るはずだ。
いや、自分なら――する。恋人の乗っている船、やってくるのは大体顔を知っているAAクルー……彼女に頼めば、出来たはずだ。
なぜ、彼は行動しなかった? AAの存在を由としない村人に遠慮した?
それとも彼女に遠慮した――?
理由は、サイの放った一言で明かされた。

「まあ……無事で何よりだ。とにかく、一度戻ろう」
「どこに?」

トールの鋭い視線が、サイを射抜く。

「どこって……AAだよ。お前だって……」
「……やっぱ、そういう話になるよな……」
「トール?」

声が小さすぎたせいか、ミリアリアが聞き返す。

「悪いけど、AAには行かない。俺の居場所は、ここだから」
「どういう意味だ?」

今度はサイが、鋭くトールを見る。そんなサイをなだめる様、マリューは横に立ち、キラとミリアリアはぽかんとするだけ。
意味が分からない。
着いていけない。
トールの言葉の意味が――

「もう戦艦には乗らないってことだよ。本当はすぐにでも出て行ってほしいんだ。あれはこの島にとって、悪夢そのものだから……」
「なんだよ、それ」
「ならサイは、連合が攻めてきた時、どれだけ被害を加えられたか、知ってるのか? AAの攻撃だって、どれだけ脅威なものだったか――」
「あれは攻撃じゃない! オーブを守るために……」
「守るため? 本島を守るためだったら、他の島はどうなっても構わないって言うのか?!」
「言ってないだろ!」

サイの拳が、机を叩く。そこで、ぽかんとしていた二人はハッと顔を上げた。
諍う二人を見るのは、初めてにも近いほど珍しいこと。非現実的な空気は、逆に二人の思考を冷却させる。
そしてキラは、サイとトールの言い争いを止めようと、間に割って入った。

「トール……あの時、僕達は『あの決断』が最善だと信じて行動したんだ。だから……」
「けどさ、キラ。『最善』だと思う行動が『最良』の結果を残すとは限らないんだぜ? 現にオーブは落ちた」
「違う。勝ち目の無い戦いだったんだ、最初から。あれは……連合に屈しない、言いなりにならない……抵抗することこそ、意味のあることで――」
「――で、何の武力も持たないこの島は、防衛艦配備されること無く被弾受けまくった。つまり、見放されてたってことだろ? 本陣守るのに躍起になって、諸島の警護をおろそかにしてんだから」

トールの言葉は、辺りに悲痛な空気を漂わせた。

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