動く時 誰が動いただろう――と聞かれれば、指一本のタイミングで、イザークが一番だったかもしれない。しかし、実際に屋内へと最初に入ったのは、アスランだった。 突然のことに、若者たちの判断力は間に合わない。まだ自分達と同じ年代だと思われる少年達は、武器を手に取ろうと動きを見せたものの、その頃には、アスランとイザークに組み敷かれていた。 「おおっと、動くんじゃねえよ」 一人逃げようとしたネサラは、ディアッカが動きを制する。 普段なら、女性にはとても甘いディアッカだったが、今回ばかりはそうも言っていられない。 「どういうことだ? 爆発って」 動きを封じ、ネサラに問いただす。 ホテルを爆発。洒落にもならないことを、彼らは確かに口にしていたが……尋問めいた態度に、ネサラも、そしてアスランとイザークにのされた男達も、口をつぐんでしまう。 「おい! 何とか言え――」 「ねえ、これじゃない?」 とその時、一人テーブルに向かっていたキラが声を上げた。 彼が手に取るのは一冊のノート。 「……もう、遅いわ」 勝ち誇ったように、ネサラが紡ぐ。 「もう、計画は動いてる。今更あんた達が動いた所で、どうにもならないんだから」 「それを決めるのは、てめーじゃねーの」 黙らせるよう腕を拘束する手に力を込め、ディアッカはアスランに視線を投げる。 「で? どーするよ」 「とにかく、彼らを警察に引き渡さないと……キラ、ノートにはなんて書いてあるんだ?」 話を振られたキラは――珍しく、アスランに答えを返そうとはしなかった。 聞こえていない。彼の耳に、アスランの声が届いていないのだ。 ノートを開いたキラは、机に手をつき、祈るように電話をかけていた。 「……キラ?」 問いかけるようなアスランの声。 静かになった部屋に、相手方の電話を呼び出す音が響く。 「……お願いだから、出て……」 それは本当に――祈りのように。 「お願いだから、出て……ラクス……」 しかしその呼びかけに、歌姫が応えることはなかった。 |