レテスの涙






「海って……何考えてるんだ、アスランの奴!!」
「導師様の護衛だから仕方ないって割り切ってたのに……何よ、結局遊びに来てるんじゃない!!」
「あ、あの、お二人とも……落ち着いて……」

反射的に、ラクスは選択を間違えたことに気がついた。
まるで火に油を注いだ状態。彼女が止める声も、カガリとミリアリアには届いていないようである。

「信じられない! こうなったら、あの阿呆っ面に手痛い制裁を……」
「アスランの奴……終わったらすぐ帰ってくるって言ってたのに……」
「カガリさん、ミリアリアさんも……冷静に、冷静に。私の話を――」
『ラクス(さん)は黙ってろ(て)!!』

二人の一喝が、ラクスを硬直させて、

「ここまで来て、隠すことでもないでしょう」

同時に、ラクスの後ろに人影が現れた。
マルキオ導師その人である。

「ですが……マルキオ様」
「あなたの気持ちも分かりますが、この二人への隠し事は、かえって逆効果です。それに、折角こんな所まで足を運んでくれたのですから。
 ……ここまで来てのだんまりは、失礼に値しますよ?」
「…………」

マルキオの言葉にも、彼女の態度は軟化しない。それがカガリとミリアリアには不思議でしょうがなかった。
だって、ラクスなのに。
しかも不快感を示す相手が、マルキオ導師ときては……

「さあ、中へどうぞ」

マルキオに迎え入れられ、二人は椅子に腰をかける。
耳にのどかな喧騒も響いてくる。窓が開いているから届く外の声に、ミリアリアは違和感を覚えた。

やっぱり、変だ。

「……何か、気になりますか?」

座り様、マルキオが尋ねた。
目は開かないが、その顔はミリアリアに向けられている。
彼女に訊いている。

「……静かすぎるな、と……」
「この部屋が、ですか?」
「いえ、部屋とか、そんなレベルじゃなくて……このホテルが。建物は凄く立派なのに、ここに来るまで、誰かとすれ違うことはありませんでした。外はあんなに賑やかなのに……」
「……そういえば……」

カガリも、この人気の無さは不審に思っていた。
この規模のホテルでは、到底見受けられない人口の少なさ。なのに外は大賑わい。
レテスティニ島に観光客が来ていない――というわけではない。
このホテルに、誰も来ていないのだ。

「ここ[レテトニア]の客は、私たちだけです」
「……貸し切ったんですか?」
「貸しきらざるを得なくなった、という所でしょうか」

マルキオの言葉に、二人の顔が一瞬で強張る。
この頃には、ラクスもとやかく言う気は無くなっていて……自然と冷蔵庫からペットボトルを取り出し、コップにお茶を注いでいた。

「姫様は、彼女にどこまでお伝えですか?」
「導師様が、孤児院の視察で島に来た……と」
「あなたはどう思いますか? ミリアリアさん。本当にそれが全てだと思えますか?」

再度マルキオは、ミリアリアに話を振る。
彼女の意見を聞こうとする。
ミリアリアは――的外れかもしれないと思いつつ、考えるまま、話してみた。




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