夜の浜辺で






「月が綺麗だなあ……」

夜風を一身に受けながら、カガリは小さく呟いた。
月の輝く紺色の空、ゆっくり瞳を落とせば、月光で幻想的な空気をかもし出す海が見える。


なんとか、事件は幕を下ろした。
あの後、アルゾートは投降した。ネサラも、彼の仲間達も、誰も抵抗することなく。
そして、一段落して……夜になって、みんなで夜の浜辺にやって来て。


そう全て終わったのだ。
全て解決した――のだが、カガリの顔が晴れることは無い。
ショックが大きすぎた。
そんなカガリの前に、アスランが姿を見せた。

「大丈夫か?」
「アスラン……あ――別に、気に病んでなどいないぞ? 心配するな」

気丈に振舞っても、落ち込む空気を隠し切ることは出来ず……自分を心配し、曇っていくアスランの表情を見て、カガリは「平気なふりをする」から「話をすり替える」に作戦を切り替えることにした。

「ところでさ、お前、すごかったな」
「何が?」
「ほら、ネサラが馬鹿なことしようとした時。みんな動けなかったのに、お前だけ、あいつの所に行って……」
「ああ、彼女が銃を持った時か……かなり際どかったからな」
「……?」

言葉の意味が分からず、首を傾げるカガリ。
するとアスランは、彼女の目を見て断言した。

「カガリが撃たれるかも、と思った」
「わ、私がか?!」
「彼女、君も恨んでたし……カガリの立ち位置も、流れ弾が当たってもおかしくない場所だったし」
「ちょっと待て! お前、ネサラのこと――」
「心配したさ。絶対、死なせちゃいけないとも思った。けど……もう、カガリのことで頭がいっぱいだった」

言ってアスランは嘲笑する。
自分でもびっくりしたのだろう。ネサラを助けたいと思って行動したのに、その実一番心配していたのは、別の少女だったのだから――

「浅ましいな、俺も」
「そんなことないっ!!」

立ち上がり、彼女は叫ぶ。

「私は嬉しいぞ! その――私のこと、守ろうとしてくれたんだよな……すごく嬉しい」
「カガリ……」

月明かりが、赤く染まったカガリの頬を、柔らかく照らした。




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