二つの盾






シホ・ハーネンフース。
誰もが、彼女の出現に驚きを隠せなかった。


「君は……いきなり何をするんだ!」
「銃を持ったテロリストが、今まさに発砲しようとしているのよ? なのに、どうして黙って見てなくちゃならないのよ」

アスランの糾弾にも、彼女は何ら動じることなく、仁王立ちを決め込んでいる。
アルゾートの手から銃が離れ、指からは血が流れ……その様を見ながら、冷静の中に怒りを押し込め、シホは叫んだ。

「大体、仲間が撃たれようとしている時に、傍観決め込める方がどうかしてるわよ。何で行動しようとしないの? それでも元フェイス? ああ、嘆かわしいっ!!」

いや、押し込めてもいないか。
シホはまるで鬱憤晴らしのように、一通りアスランへの鬱憤を叩きつけると、ゆっくり室内に入り、再び銃口をアルゾートに向けた。

「てゆーかあんた、狙ってたのがディアッカだったから指狙ってやったけど、少しでも隊長に被害出るような構え方してたら、今頃頭吹っ飛んでるわよ」
「それはやりすぎだ……」

突然、前触れ無く現れた少女――シホ・ハーネンフースの言い分に、彼女の上司・イザークは、頭を抱えた。
いや、言葉にだけではない。その存在にも。
だって彼女は、今、イザークと共にオーブ駐留中の身で、今日も軍施設で待機――のはずなのだ。


なのに、なぜ?


たまらず、イザークは呻く。

「ところでシホ。なぜこんな所にいる?」
「それはこっちの台詞です。なんでいきなり、部下に何の報告も無く休暇をとられるのですか。しかも、探しにくい場所に観光なんて……ひどいです、隊長! どうして私を誘ってくださらないんですか?! ディアッカは一緒なのに!!」

最初は正論をぶつけたシホだったが、要はイザークが黙って休暇とった上、リゾート地にやって来たことに怒っているだけらしい。しかも自分には声がかからないのに、何でかディアッカは同伴オッケーな所がまた、彼女の怒りを増幅していると考えられる。

「……つまり、俺を追いかけてきた、と」
「隊長の現在位置の把握と、御身に危険が迫っていないかの確認です。あ、極秘任務って名目で、色々特権行使させていただきましたので、後のフォローお願いしますね、隊長」
「フォローってなあ……」
「全部隊長を思ってのことです! もう……折角経費使って隊長と漫遊できると思ってたのに、着いたら着いたで、こんな面倒くさいことに巻き込まれてるし……もっとご自分を大事にしてくださらないと、私が困るんですからね? ちゃんと考えて行動してください」
「ぅわ、すっげー我儘……」
「――なんか言った?」
「いえ、何も」

本音を呟いた瞬間、シホの地獄耳に察知され、すかさずディアッカは両手を上げた。
……据わった瞳で銃口を向けられれば、手も上げたくなるだろう。
そんなディアッカの姿に、ミリアリアはいたたまれないものを感じ、おずおずとシホに語りかけた。

「あ、あの、シホさん……こいつ、確かに悪気あって言ってるんだろうけど……大目にみてやって」
「ミリアリア。頼むから、フォローするならしっかりやってくれ。かなり冗談通じない相手だから」
「分かってるじゃない」

こめかみを引きつらせ、シホは一歩――銃を構えた状態で――ディアッカに歩み寄ったものの、少し考え、自分に手を打ち抜かれ、膝をついているアルゾートにターゲットを変えた。
こんな事件、さっさと終わらせたい。それにこれ以上ディアッカに絡んだら、イザークへの印象が悪くなってしまう。

「さぁて、そろそろホテルに仕掛けた爆弾の場所、教えてもらいましょうか。ここで爆発させたって、あんまり良いこと無いわよ?」




*前次#
戻る0

- 26 /44-