悪夢の暴発






彼は、怒っていた。
部屋の中で起こっている惨劇に、激しい衝撃を覚えていた。
青年が放つ言葉。そして、青年が銃を向ける相手……まるで悪夢を見ているかのようだった。

「君は……その言葉の意味を、ちゃんと分かった上で、使ってるのか?」
「……誰だ? お前……」

カガリは、ラクスは、そしてミリアリアは、目を見張った。
紺色の髪をなびかせた少年は、戸口にいた造反員の一人を簡単に倒すと、銃を奪い、アルゾートに火口を向ける。

「分かっているのか、と訊いてるんだ」
「分かってるさ。コーディネーターなんざ、この世に必要ない生物だっていう意味だろ?」
「……本気か?」

問う少年は、カチャリ、と音をたて、拳銃の発砲体勢に入った。
それは、人の命を簡単に奪ってしまえる、絶対的な「力」を。
一瞬ざわつく部屋の中――しかしアルゾートは分かっていた。自分達が、どれほど有利な立場にあるのか。
そう、彼らには「人質」がいるのだ。

「……動くなよ……動いたら……」
「撃て、アスラン!」

銃を向けられながらも、カガリは訴えた。
部屋にたどり着いた、紺色の髪の少年――アスランに。

「動いても動かなくても同じだ。だから、こいつを止めてくれ、アスラン!」
「カガリ……ッ」

アルゾートは、厳しい眼差しをカガリに向けた。
どんどん、自分の考えていたものとは、別の方向に話が進んでいっている。
そう、彼女がここにいること自体、計画外なのだ。ここにいるのは、導師と五人のコーディネーター……だから、部下から訪問者が来たと報告があった時も、どうせ彼らの同胞だと思った。計画通りことを進めても、何ら問題ないはずだった。

まさかここに、幼い頃――短い時間ではあったが、同じ屋根の下で過ごした、まるで妹のような人物がいるなんて、考えもしなかった。

迷いが生まれる。
どうすれば良いか分からなくなる。
自分はただ、コーディネーターのいない世界を作りたいだけ……
コーディネーターのいない、平和な世界を作りたいだけなのに。


そのために、彼女も犠牲にする?


「撃て、アスラン!」
「――ッ」

一方、アルゾートが迷う今、彼を止める絶好の機会ではあるものの、アスランは動けないでいた。
彼一人なら動ける。多分、そう苦労せず取り押さえることが出来るだろう。
しかし中には、彼以外に何人もの造反員が侵入しているのだ。アルゾートを制しても、彼らも同時に沈黙させないと、事態は悪化の一途を辿るだけである。

だが、策を練っていられるほど、事態は優雅なものではない。

「しっかりしろ、アルゾート!」

SPから叱責が飛んだ。

「惑わされるな! その女はオーブの代表……ならそいつも、俺たちの敵だ!!」
「クルガ……けど――」
「邪魔なやつは、全部なぎ倒す! 青き清浄なる世界のために!!」

リーダーの迷いを吹き飛ばすため、SP役の青年・クルガは、強硬手段に躍り出る。
懐から出てくるのは手榴弾。彼は金具を引き抜くと、アスランに投げつけた。

「何を――無茶なことを!!」

突然……本当に突然出てくる手榴弾に、アスランは慌てた。
こんな所で発動すれば、彼らもただじゃ済まない……アルゾートだって、巻き込まれる可能性は多分にあるのに。




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