テンション高いです


しみゅれ〜と☆







密室。暗闇の中で会合を開く、三人の男がいた。
小さな明かりを中心に、円を描くはノイマン、トノムラ、チャンドラの三人組。彼らは何やら真剣そうに、明かりを見ている。

「……どうしたもんかな……」

沈黙を破ったのはトノムラだった。肘をつき、組んだ両手にあごを乗せ、彼は呻く。

「まさか少佐と艦長が、あんな関係だったとは……」

心の奥底からの悲鳴だった。
そりゃあショックだろう。驚くだろうさ。三人そろってブリッジに戻ってみれば、ムウとマリューの、それはあっつ〜いベタベタなラブシーンに遭遇だ。あんぐりと口が開いても、咎められるいわれは無い。
おまけに二人とも――いや、ムウは気付いてそうだが、マリューは三人の存在など、全く感知していない様子だから、性質が悪い。

「何で艦長と少佐が……軍規はどこへ行ったんだ!」
「アラスカから逃亡した段階で、軍法規約なんか、宇宙の片隅に追いやられてるよ」

言うはノイマン。三人の中では平静な方だが、一番の真面目さんは、その性格ゆえに頭を悩ませている。

「だが、風紀の管理は必要だ」

軍規なんて無い、と言いつつも、ここだけは譲れないらしい。

「あんな風に、どこでもイチャつかれたら、こっちの立場が無い!」
「まー……それはそうなんだが……チャンドラ、そろそろ素直になろう」

言ってノイマンは、ポン、とチャンドラの肩に手を置いた。
その後は、トノムラが続ける。

「素直に認めよう。羨ましい、と」
「…………」
「…………」
「…………いいな、彼女」

沈黙の後、これまたトノムラが嘆く。
この三人、恋人はいない。過去は……まあ放っておこう。問題は「今」だ。
今現在恋人大募集中なのが、これまた大問題なのである。

「この環境、この状況……どーやって彼女作れってんだよ!!」
「クサナギやエターナルには、女性クルーもたくさんいるんだがなあ……」

あーあ、とノイマンは天を仰いだ。

「うちに女性クルーって、あと何人いるんだっけ?」

悲しげなチャンドラに、これまた悲しげな現状が、ノイマンの口から告げられる。

「一人だけだ」
『…………は?』

答えを受けたチャンドラ、そしてトノムラまでもが声を上げた。

「イマ、ナントオッシャイマシタ?」
「だから、一人だけだ、と」
「ひとり……??」
「一人」
「ひとりって……」
「ミリアリア・ハウ二等兵のみ」

ミリアリア――そう、ブリッジで健気に働く女の子。
アークエンジェルにいる女性クルーは、現在マリューと彼女だけ……となると、近場で狙えるのはミリアリア一人。




『……………………』



想像してしまう。
浮かぶ彼女とのあま〜い『恋人風景』に、彼らの顔はにやけてしまった。

「おいおいおいっ!」

本気で心配し始めたノイマンが、大声と共に立ち上がる。

「分かってるか? 相手はまだ16だぞ? 子供だぞ?! 犯罪だぞ!!」
「分かってないなー、ノイマン。10年後を考えろ」
「10年経っても年の差は変わらん!」
「若妻……良い響きだ……」
「そうそう。軍規も何もあったもんじゃないし」
「軍記は無くてもモラルは考えろ!!」
「お嫁さんに欲しいなー……」
「……本気か? トノムラ……」

訊くまでも無く、本気と言うのは分かった。分かったが――訊かずにはいられなかった。

「だって、良い子じゃないか、ハウ君は。可愛いし優しいし気が利くし……今まで会ってきた女性の中じゃ、断然お嫁さん候補ナンバーワンだな」
「……そうか? 俺はバジルール中尉の方が……」

トノムラの意見に、ノイマンは思わず本音をもらす。そこに――

「え! ノイマンって、中尉のこと好きだったのか?!」
「!!!!」

過剰反応するはチャンドラ。彼の驚きっぷりに、ノイマンは反撃を出すタイミングを逃してしまった。
顔はどんどん赤くなり、それら全てが彼の心情を物語る。

にやり、と顔をゆがめるトノムラとチャンドラ。彼らが、アーノルド・ノイマンらしからぬ失態を、放っておくはずがなかった。

「お前、おかしーんじゃねーの? 中尉って! 趣味悪すぎ!!」

トノムラが笑い、

「そりゃ確かに、中尉の足は綺麗だったけどさ」

チャンドラも乗っかってくる。

「どこ見てるんだ、チャンドラ!!」
「うん、あれはまれに見る美脚だった」
「だから、チャンドラ!!」
「だけど中尉は目の保養であって、狙うべき女性じゃないよ」
「〜〜ひとの話をきけーーっ!!」

主張完全無視で話を進めるチャンドラの頬を、ノイマンは力強く引っ張った。
それはもう、これ以上伸びないというほど、限界ギリギリまで、両手の力を緩めることなく。

「ほいはぅ……ひふ……い゙ーぶー!」

[訳:ノイマン……ギブ……ギーブー!]

……と言ってるものの、ノイマンには全く伝わらないし、例え伝わっていたとしても、手を止めることはないだろう。

「貴様がそんな色眼鏡で中尉を見ていたとは……許せん!」

――というか、怒りで我を失っている。




「ほ、おうあ……」

一方、死相すら出かけているチャンドラは、助けを求めようと、必死でトノムラに手を伸ばしたが、

「いよっ、ノイマン! 正義の鉄槌かましてやれ!」
「ほーほーうーあー!!」

トノムラの仲裁はゼロだと察し、助けを求める瞳は非難のそれに姿を変えた。しかし、視線を受ける当人は、気にすることなく、色男をあおり続ける。
分かっていた。こういう奴だと重々分かってはいたが――


〈あとでシメる……!!〉


この湧き上がる感情は、ちゃんとぶつけておかなければならない。
例え――日常茶飯事な事だとしても。
仕事で真面目なトノムラも、勤務時間外はパルやノイマンをからかい……結果として生まれる厄介ごとは、九割以上がチャンドラの身に降りかかっている。
誰かが言っていた。「お前も厄介なのに目ェつけられたなー」と。冷やかすように笑ったあれは、誰だっただろうか。

いや、そんなことはどうでも良い。
今はノイマンだ。
口は裂けそうだし、意識も朦朧としてきた。


〈俺……死ぬのか……?〉


こんな死に方嫌だ、と思いながら、チャンドラの意識は暗転していくのだった。


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