キラ、捕虜・ディアッカとご対面


監獄の対話







アラスカでの悪夢から一転、アークエンジェルがオーブにたどり着いて、数日が経過しようとしていた。
中立国・オーブなら、連合の追撃を恐れる心配も無い。キラもまた、いつ戦闘が始まるか――という緊張から開放されていた。
ずっと付きっ切りだったフリーダムから少し離れ、改めて自由の翼を見て……

「おーい、キラ! ちょっとフリーダム動かしてくれねーか?!」

感傷にふけるキラへと、整備班の一人が声をかけてくる。

「奥のモビルスーツ、モルゲンレーテに運びたいんだ。30分くらい、移動頼むわ!」
「……モビルスーツ?!」

その言葉に、キラは首をかしげた。今アークエンジェルにあるモビルスーツは、目の前のフリーダムだけのはずである。

「……ああ、そっか。お前、知らなかったな」

不思議な顔をしているキラに、整備班の青年は、彼の関知しない話をし始めた。

「お前が行方不明になった『島』の戦いで、バスター取り戻してんだよ」
「バスター?!」

バスター……それは何度も、アークエンジェルを窮地に追い込んできたモビルスーツの名前で、つまり――アスランの仲間が操っていた機体。
急に、背筋に寒いものが走った。


また一人、彼は『仲間』を失ったんじゃ――


「……パイロット、は?」

震える手を握りしめ、彼は訊く。すると整備班の青年は、キラとは対照的に、のんびりと言ってのけた。

「パイロットはアラスカで……ああ、降ろされなかったんだよな?」
「そうそう。まだ拘禁室にいるはずだぜ?」
「拘禁室……」

揺れる瞳に、決意が灯った。




アークエンジェルは、実に平和な船だ。敵軍人が捕らわれている部屋に、見張りすらつけようとしない。そもそも『捕虜』の存在すら、船内では希薄で――これで良いのかな、とキラですら危機感を覚えてしまう。
まあ、おかげでこうやって、難無く拘禁室へとやって来れるわけだが。

いくつも立ち並ぶ鉄格子達。その一番奥に、彼はいた。
金髪、浅黒、紫紺の瞳……自分と同じくらいの軍人の姿に、彼は息を呑む。
少しだけ、頭の中にあった姿だ。
キラは一度、彼を見ている。オーブで……アスランと再会したときに。

あの中の誰かが『ニコル』で、誰かが『バスターのパイロット』だと

「何だ?」

見慣れぬ顔だからか、それともジッと見てしまったからか、中の少年は眉をつり上げる。

「用が無いならさっさと出てけよ。俺、野郎に興味なんて無ぇから」

捕虜は――自分の立場を理解しているのか疑問に思うほど、ふてぶてしい態度を見せた。
本当に捕虜なのか……一瞬、疑ってしまうほど。

「そんなに珍しいかぁ? コーディネーターが」
「別に、そんな……」
「じゃあ出てけよ!」

苛立ち、捕虜は叫んだ。
確かに鉄格子の向こうから眺められるのは……良い気分などしないだろう。

何を、どういえば良いのか分からない。
でもキラは、彼と話がしたかった。
どうにかして、ちゃんと、話をする空気に持っていけないか……考え、出した結論は、とても簡単なもの。


回りくどいことをせず、事実を告げれば良い。


「……ぼくも、コーディネーターだから……」
「!!」

キラの告白に、捕虜から怒気が消え失せた。さすがに連合の軍服を着た同胞の姿は、色々な意味でショックだったようだ。
声を失い、下を向いて何か考え――ハッと頭を上げる。

「お前まさか、パイロット?」
「……ストライクに、乗ってました」

コーディネーターの連合側――その言葉は、捕虜の脳裏に『ストライク』を過ぎらせた。
ナチュラルだナチュラルだと思っていた『敵』が自分達の同胞……ならば、あの神がかり的な操縦技術もうなずけよう。

「僕は……」

小さく、キラの口が動く。

「ぼくは、あなたの仲間を……」
「あー、ストップ」

キラが今、言おうとしていること。その全てを読み取って、捕虜はすかさず制止をかけた。

「ニコル……ブリッツのことならやめてくれ。俺は別にお前の謝罪なんか聞きたくねーし、辛気臭い顔も見たくねえ。てゆーか鬱陶しいだけだからさっさと消えてくれ」
「……ごめん……」

やはり謝ってしまうキラは、それでも動こうとしない。

「何だよ、まだあんのか?」
「そ、の……」
「……俺、待たされるのすっげー嫌いなの。用があんなら、今言えすぐ言えさっさと言え!!」
「えあ、あああのっ!!」

まくしたてられ、早く言おうと試みたものの、口は上手く動いてくれない。
慌てるキラを見ながら、捕虜はぽつりと、関係ない――いや、本当にこの場には全く関係ないことをつぶやいた。

「……っかしーなー……やっぱ、あいつじゃねーと、こう……普段通りでいけるのに……」
「え?」
「あ、気にすんな。こっちの話」

その時、格子の中の少年が思い浮かべていたのは、外はねの髪が愛らしさを倍増させてる女の子だった。
彼はどうも、彼女の前では調子が狂うらしい。


それを――未だ名前も知らぬ男に話す気も無いが。


「で、マジで何なんだよ。捕虜って言っても、そう暇じゃねーんだよなー」


とか言いつつ、実際――分かりきっていることではあるが、相当暇である。


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