種39話キラ&アス再会後、ディアさん交えた会話


わだかまり







それはまだ、宇宙に上がる前のこと。

オーブの、対連合戦に介入したアスランは、ジャスティスを見上げていた。
ここはモルゲンレーテの格納庫。
ジャスティスの隣では、フリーダムが灰色に輝いている。
少し遅れてバスターも入ってきた。

自然と目が、コックピットへ向く。

一体どんな人物が乗っているのか。
そもそもバスターがここにあるということは……ディアッカはどうなったのだろう。
エマージェンシーも無しの戦闘中行方不明。アスラン自身も、生存は絶望視していた。

しかし戦闘が二ヶ月前のものとはいえ、ここまで修復されているとなると……

生存に、かすかな希望が出てくる。
もしかすると連合の捕虜にでもなっているのかもしれない。
それはそれで最悪な事態ではあるものの、生きているならその方が良かった。

生き恥と言われようとも。
仲間が死ぬのはもう嫌だ。
お世辞にも仲が良いとは言えなかったが……それでも、大切な仲間に変わりはなくて。

「……アスラン」

フリーダムを降り、すぐどこかへ消えてしまったキラが、再びアスランの前に現れた。
遠慮がちに放たれた言葉と共に、手にしていたカップを差し出す。
中には、温かいコーヒーが注がれていた。

「すまない」
「いや……」

カップに口をつける二人。
久しぶりに語り合う時間ができたというのに、なかなか会話がはじまらない。
どうしていいか分からず、アスランはバスターに目を戻す。

ほどなくして、コックピットが開いた。

「――――」

現れた『赤』いパイロットスーツに、アスランは身を乗り出した。
一体どんな人間がバスターを使ったのか……と思っていれば、出てきたのは何とザフトレッド。
しかもよく見慣れた人物だ。
同時に、一番可能性がないと思っていた人物。

「……?」

アスランの様子に、キラもバスターを見る。
そこでようやく、彼とアスランが同じ隊にいたことを思い出した。


「ああ……仲間なんだよね? 彼。ディアッカ」


名前を聞いて愕然とする。
そう、ディアッカだ。
ディアッカが生きていて……AAと共にバスターで連合と戦った……?

……とてもじゃないが信じられない。
今こうやって、自分の目の前で、バスターからディアッカが降りてくる様を見ても。

だから、ディアッカの次の行動に、アスランは対処することが出来なかった。

「……よっ」

気まずげな表情をしたのは一瞬だけ。
軽く手を上げたディアッカは、なんとか笑顔を作っていた。


「ディ…………な、んで……」


驚きすぎたアスランは、これが精一杯で。

「ま、色々あってな」

ディアッカもまた、深くは言わない。
自嘲するかの笑みに――これまたアスランは対応できなかった。

同時に思う。
彼は本当にディアッカか――? と。
二人が最後に言葉をかわして、ゆうに二ヶ月が過ぎていた。
……いや、二ヵ月しか経っていない。
その二ヶ月で、アスランから見るディアッカの印象が、随分変わっていた。

自分に向けられていた、あの刺々しさが全く無い。

「……どうして戻ってきたの?」

アスランの気持ちを代弁するように、キラが口を開いた。
彼から見ても、ディアッカが戻ってきた理由は見当がつかない。
何せディアッカ、捕虜だったのだから。

何も知らない故、状況が飲み込めないアスランと、ディアッカの待遇を知っているが故に、彼の行動の真意を問いたいキラ。
二人から同じように疑問の目を向けられ、ディアッカは顔をしかめた。

この視線は痛い。
だが、視線が離れる素振りもない。

彼は観念すると、心底仕方なさ気に言った。


「別に……大した理由なんてねーよ。連合と戦っただけだ」


言い終わってから、くそっ、と悔しげに放たれた言葉を、アスランは聞き逃さなかった。
まるで……自分に言い訳しているようにすら見える。

アスランは感じていた。何か、他に理由があると。
でなければディアッカが、連合と戦ったとはいえ、アークエンジェルと共に戦うとは思えない。

キラも似たような解釈をする。
なんというか、まるで連合と戦ったというよりも、アークエンジェルを守るために残った……そんな風に感じられて。

そして、不意に会話が途切れた。
居心地の悪い沈黙が、あたりを支配する――そんな時のこと。


「あ? お前ら、まだそんな所にいたのか?!」


突然あらぬ方向から声が響いた。
四人の中では最初に帰投した、ムウである。彼はすでに軍服に着替え、キラ達に手を振っていた。
その手を入り口に指し、大きく一言。

「さっさと着替えて、汗流してこいよ! 使えなくなるぞ、シャワールーム!」

それだけ言って、また何処かへ行ってしまう。
ここはモルゲンレーテの格納庫。もうすぐ現戦闘で出撃したパイロット達が、こぞってシャワールームにおしかける。
使うなら今……ムウはそう言いたかったのだろう。

「えーと……」

不思議な間があいた。
きょとんとしながら、それでもキラは言葉を探し……

「……行く?」

気の利いた言葉が浮かばない。
結局、戸惑い要素満点の声が出てしまった。

「……ああ」

アスランもまた、遠慮がちな笑顔を見せる。

キラが先導する形で歩き出す二人。
その一歩後ろから、これまたどう対応していいのか分からないディアッカが、困惑顔でついて行く。


――三人のわだかまりは、まだ消えない――




-end-

結びに一言
種40話「暁の宇宙へ」がディア&アスの初再会シーンは嫌だなあ(笑)という想いを詰め込んで書いた話です。
こーゆーの、結構好きです(^^;

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