アスランが待つのは…


待ち伏せ






その姿に、キラは首を傾げてしまった。

「……何してるの? アスラン」
「ちょっと待ち伏せしてるだけだ。あまり気にしないでくれ」
「はあ……」

そこは、整備の手伝いで召集されたクサナギの、各区画を繋ぐ十字路だった。
こんな場所で、眉間にしわを寄せるアスランを見つければ、誰だって、キラの様に不思議に思い、声をかけるだろう。
彼はただ、じっと身を潜め、ブリッジ方面に意識を集中させている。

「……ええと、念のため訊くけど、誰を待ってるの?」
「カガリ以外に誰がいる」
「だよねえ……」

きっぱり答えられ、キラは苦々しく笑った。
しかし、解せない。

「……何で待ち伏せなんかしてるのさ」


別に、普通に会えば良いことじゃないの――?


彼が疑問を全て言い終わる前に、これまで全く通路から目を離さなかったアスランが、初めてキラに目を向けた。
光いっぱい。闘志に目を輝かせて。


「待ち伏せ『なんか』とはなんだ、キラ!!」


まずは一言、煌びやかなオーラを振りまきながら叫ぶことで、キラが反論するタイミングを完全にもぎ取る。


「待ち伏せを甘く見るな! この世には、曲がり角でぶつかって『ああ、ごめん。急いでいたものだから、つい……』『いいえ、こちらこそ、前を見ていなくて……』――なぁんて恋愛型発展系出逢いを故意に作る手法だってあるんだぞ?! こんな絶好のチャンスに使わないで、いつ行使しろというんだ!!」


力説するアスランは……輝いていて。
キラが寒くなってしまうほど……輝いていて。


「……アスランって時々、どーでも良い事に、すっごい頭使うよね……」
「キラ。友人の恋愛事を前に『どーでも良い』は酷くないか?」
「うん……けどさ、もう出会ってるんだからさ、今更出逢いを作る必要、無いんじゃない?」

『どーでも良い』と言ったことを謝るどころか、逆にダメ出しをはじめるキラ。

「何? もう新しい風を求めてるの?」
「いや、新しい風と言うか……ほら、こんな状況だし、二人っきりにもなり辛いだろ?」
「それで、あたかも偶然を装って、二人だけの空間を作ろうとした……と」

アスランは、無言でうなずく。
いつしか始まる、恋愛相談教室。
そして、キラは思った。


〈……アスランって……どーして時々、救えないくらいヘタレに見えるんだろう……〉


実際、今現在、異常なほどヘタレである。


「……他に、待ち伏せを有効活用する術はないだろうか……」
「待ち伏せから離れる気はないんだ」
「さすがに二時間も待てば、貫き通したくもなる」
「……二時間待ってるんだ……」

呆れるキラ。
別に会えない場所に居るんじゃないのだから、その二時間があれば、仕事手伝うなり、休憩に誘うなり、色々やれることがあった気もするのだが。

「思いつかないなら、そろそろドッグ行こうよ。僕達、整備手伝いに来たんだからさ」
「だが……そう、例えばこんな風に、歩いてきたカガリの腕を引っ張って、包容するくらいは――」
「アスラン。それ、犯罪」

今日のキラは容赦が無い。
腕を引っ張り、包容する様を実演するアスランに対し、冷めた声で切って捨て――

「あと、ダリダさん可哀想だから、離してあげて」
「は? ダリダさん?」

言われ、不思議そうに自分の腕の中を見た。

何故か、人間がいる。
自分が、知らない人間を抱き締めている。

先程、包容して云々の下りをジェスチャー付きで説明した際、どうやら偶然通りかかった『彼』を掴み、腕の中へ引き入れてしまったようである。


――ダリダ・ローラハ・チャンドラ二世――


「あの……俺、ソノ気は無い……」
「俺だって無いっ!」

叫び、チャンドラを突き飛ばすアスラン。その先に……

「……お、まえ……っ!」
『カガリ!』

キラとアスランの声が、目の前に現れた少女の名を紡ぎだす。
彼女は……ノロノロと、後ろに後ず去った。

「お前、オトコが好きだったのか……?」
「カガリ、違……」
「寄るな!」

アスランの弁明を、カガリは全く聞こうとしない。
まるで、恋人の浮気現場に直面しているかの様に――


「私とのことは、遊びだったんだな!!」


――と言うか、浮気現場だと思い込んでいる。

「待てカガリ! これは……」
「煩いうるさいっ! お前なんか知るか!」

子供の様に駄々をこね、カガリはブリッジへと逃げていき、すかさずアスランは後を追って――



どごふっ!



蹴り飛ばす音。
=蹴り飛ばされる音の後、微かに聞こえてくるのは「カガリ……」と言う呻き声。


「……アスランって……どーして時々、こんな……身の毛もよだつくらい、ヘタレになるんだろう……」


つい数分前、同じ事を考えたなー……と思いながら、キラは大きなため息をつくのだった。




-end-

結びに一言
アスランヘタレ過ぎで、どうしてくれよう…な一本(爆)
多分カズイがAAに残ってたら、彼が抱き締められてたよーな。

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