戦後、家族を奪われたオノゴロに出向いたシンのお話


永遠の悲しみ







その日、シンは墓参りに来ていた。家族を一瞬で失った悪夢の場所に花を手向け、手を合わせて。

……色々なことを、思い出していた。
彼の頭に浮かぶのは、楽しかった日々の数々。なのに、あの瞬間だけは思い出せない――否、意図して思い出さない様にしているのかもしれない。
思い出しても……苦しいだけだから。
一体どれほどの間、そんな風に過ごしただろう。シンの視界の隅っこを、人影が通り過ぎた。


こんな山奥に、一体誰が――?


シンは不審に思い、歩き出した。
人影の通った方向へ。
草をかき分けて進むこと数分、切り立った崖の手前で、人影を見つけた。それは――

「……ミリアリア、さん?」
「え? あ、シン君じゃない。久ぶりー」

神妙な顔をしていたミリアリアは、シンを見るなり、朗らかな笑顔を見せた。

「どうしたの? こんな所で」
「……それはこっちの台詞です。危ないですよ、こんな所に一人で来ちゃ」
「うーん……でも、来たかったから」

危ない場所と認めた上で、ミリアリアは言う。

「……守り切れなかった場所を、ちゃんと、焼き付けておきたくて……」

手でしっかり、カメラを握り締めて。
けど、その瞳は、悲しみに震えていた。

「それは……ミリアリアさんのせいじゃ……」
「でも、私もあの艦に乗って、戦ってたの」

未だに戦闘の爪痕の残る木々の姿を映しながら、彼女は嘆いた。

「守れなかった、一人なの……」
「ミリアリアさんっ!!」

ぎゅっとミリアリアを抱き締める。続きを言わせないために。


――それ以上は駄目だ――


……と、思っても。

「シン君のご家族……ここで亡くなったのよね」

話が自分におよび、身体が固くなる。

「私……シン君の家族、守れなかった……」


絶望が襲う。
あの瞬間が、よみがえりかける。


「……大丈夫」


でも、闇に飲まれる訳にはいかない。


「俺が、生きてる」


シンは囁く。


「俺は生きてるよ、ミリアリアさん……」


だからそれ以上、悲しまないで。
だからそれ以上、自分を責めないで。


深いふかい山の中で、シンは、もう一つの悲しみと直面した。





-end-

結びに一言
多分、運命終了後数週間……て所だと思われます(曖昧や)
簡単に癒えない、戦争の傷痕……

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