イザークさんとカガリさんはデートに出かけました


イザカガデート妨害同盟






「――!!」

その瞬間、イザークは辺りに意識を張り巡らせた。
間違いではない。確かに今、視線を感じた。
強烈な視線を。それはまるで……自分達を監視するような、刺すような視線で。

「どうした? イザーク……いきなり……」
「いや、大したことじゃない」

彼は隣にいるカガリを不安がらせないため、あえて普通に振舞った。そして後ろに気を配る。
尾行られている。
狙いは彼女だろう。オーブの代表、カガリ・ユラ・アスハ。彼女はこういうことに関して、かなり敏感に構える傾向がある。カガリの置かれる立場を考えれば、別に不思議なことでもない。ただ、今は完全にプライベートでの行動だし、変な厄介ごとに彼女を巻き込ませたくもなかった。
いつもSPが居なくては、外出できない女の子。というか、こうやって一人で出歩くこと事態、滅多に無いし、普通にありえる状況ではない。

狙うには、格好のチャンス――

「なら、もう少し楽しそうな顔しろよ。……もしかして、嫌々来たか?」
「そんなことは……」

下から顔を覗き込まれ、イザークは困惑した。
背後からこちらを狙う謎の存在に警戒したいが、そうすると、カガリがこんな感じで不信感を持つ。
同時に、彼は考えてしまった。


〈これはもしや……デートという奴なのだろうか……〉


映画に行こう、と話を振られて……どうせキラやアスランも一緒だろうな、なんて思ったら行く気は全くしなかったが、それでも彼女が一緒に行きたいと言うものだから、待ち合わせの場所にやって来たら……居たのは彼女一人で。
つまり、二人っきりで映画鑑賞会。
衝撃だ。
生まれてこの方、一度も女性と二人っきりで出歩いたことなんて無い。対処の仕方がイマイチ掴めず、心中激しく穏やかでいられない状況なのに……後方に謎の監視者達の存在ときたら、厄介なことこの上ない。


〈どうやってまくか……〉


二人――いや、五人か。一瞬感じ取れなかった三人は、恐ろしいほど綺麗に気配を絶っている。
素人じゃない。
玄人で人数もいるとなると……

「……なあ、イザーク」
「――なんだ?」

と、カガリの声が、考え事に没頭し始めていたイザークの頭を、少しだけ現実に戻した。
彼女は照れながら、訊く。

「……腕……組んでも良いか?」
「腕くらい……――うで?!」

イザークは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。それまで彼が組み立てていた「謎の集団を振り払っちゃおう大作戦」は、一気に脳内から吹き飛んでしまう。

「う……腕、か……」
「あ、その、嫌だよな。ははっ……いや、うん。気にしないで、くれ……」

言うカガリの顔は真っ赤で。
つられてイザークも真っ赤になって。

「……嫌じゃ、ない……少しびっくりしただけだ。腕を組んで歩くなんて……したことないから……」
「そうか。私も、初めてだ」

空気がギクシャクする。
イザークは一応「腕を組んで良い」という意味を込めて言ったし、カガリもそれは受け止めているが、一度タイミングを外してしまったため、行動に移せなくなってしまった。
会話が途切れる。
そんな沈黙は、歩数にして二十歩ほど続いた。

「ほら」

二十歩目にして、ようやくイザークが動く。
彼は、カガリに腕を差し出していた。
方や差し出された側は、何がなんだか分らず、目を点にして――

「だから、こうなんだろ?!」

呆けるカガリの腕を、イザークは自分の腕に絡ませた。
腕組みの図、完成である。

「え? イザ……あの」
「問題あるか?」
「ないっ……ない、な」

瞳をトロンとさせながら、カガリはギュッと、イザークの腕にしがみついた。
瞬間――





めごっ!!





『――?!』

遠くから、正体不明の破壊音が耳に入った――気がした。


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