種メンデル戦直後。フレイを思うサイ→フレ系


無力の欠片







ただ呆然と、闇を見ていた。
ただ呆然と、宇宙を見ていた。
その先に、月がある。あの奥に、地球がある。

「疲れてないか? ミリィ」
「大丈夫」

後ろから響くサイの声に、彼女は振り向くことも無く、小さく返した。
そこは展望室。音の無い空間に、サイの足音がむなしく響いた。
横に並び、彼もまた、宇宙を見やる。

「……キラの様子、どお?」
「大丈夫……とは言えないかな。でも、ラクスさんが着いてくれてるから」
「そっか」

数時間前、AA・クサナギ・エターナルの三隻は、連合とザフト、二つの勢力と同時に交戦する事態に陥った。何とかその場は凌ぎ、彼らはこうして、別の拠点を目指して走り出しているのだが……

戦いから帰ったキラは、泣きじゃくっていた。
一足早く戻ってきたムウは、かなりの重傷を負っていた。
それに――

「……ディアッカの方は?」
「見た目は元気」
「見た目は……か」
「あの奥であったこと、何も言ってくれない……ううん、言えないみたい」

言って、ミリアリアは目を伏せる。

「あいつが相手したの、ザフトのはずだから……」

彼は戻ると、食堂に居た。
ミリアリアの目に映ったのは、普段のディアッカからは考えられもしないほど、憔悴しきった姿。なのに彼は、何でもないと強がって。
まるで、あの場であったことを訊かれまいとするかの態度に、彼女は言葉を失ってしまった。

「……ザフト……だよな」
「うん。ザフト……」

Z.A.F.T.。ザフト。
プラントの軍隊。
……なのに。

「……なんで……」

我知らず、ミリアリアは呟く。


「なんで、フレイ……ザフトに居たのかな……」
「――――」


その言葉に、サイの体から血の気が引いた。


フレイは、サイとミリアリアの友人。
サイの、元婚約者。
でもこの戦争の最中、キラとフレイは恋仲になった。

人事で船を降りたフレイ。連合で、広報系の仕事をしているとばかり思っていた彼女は、なぜかザフトに居た。
ザフトから、連合へと戻されていった。
フレイを取り戻そうとしたキラの手は……届かなかった。
そして自分は――

「……サイ?」
「――っあ……ごめん、ボーっとしてた」

ミリアリアの言葉で我に返ったサイは、悪い悪いと手を振って……おかげで、彼女もまた、自己嫌悪に陥った。
サイの気持ちは知っている。キラにフレイをとられても、彼の心はフレイにあった。
割り切ろうとしながらも、そう簡単に切り捨てられない想いが、彼の中にひしめいている。

だってそんな、易々と諦められるほど、浅い愛情ではなかったのだから。

「ごめん……変なこと言って……」
「変じゃないさ。誰だって思うことだよ」

サイは言う。

「きっとフレイは、どこかでザフトの捕虜になってたんだよ。ほら、向こうの指揮官も言ってたじゃないか」
「そう……だろうけど……」
「大丈夫。連合に戻されたんだから、もう二度と、戦場に出てくるようなことは無いよ。もうあんな……怖い思いはしないさ……」


耳に焼き付いて離れない。
回線を通じて聞こえてきた、フレイの悲鳴。
心がざわついた。
何で自分は、ここに座っているのだろうと思った。


助けに行きたい――


この手で、怯えるフレイを慰めたい――


フレイの心は、キラにあるのに。
戦場に出る力など、自分には無いのに。


こんな自分が情けなく、腹立たしく。
思わず拳に力が入る。
その手に、言葉無く、ミリアリアの手が重なった。

「悔しいのは、サイだけじゃないよ」

哀しく、静かに。

「私も悔しい。何も出来ないの、すごく悔しい」

力が無いから、何も出来ない。
力が無くても、どうにもならない。
無力な自分が歯痒くて、二人は再び、宇宙を見た。


深遠の闇に、悔しさを溶かすよう――……




-end-

結びに一言
みんなが泣いた、メンデルでの戦い。フレイがザフトから連合に戻された時……サイとミリアリアの心境はかなり複雑だったんじゃないかなー……と。

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