時間軸は士官学生時代を想像して


貴女のために






部屋に帰ると、イザークがいた。
BGMは全く無し。盛大に照明をつけ、机に向かうイザークを前に、発見者でありルームメイト・ディアッカは顔を引きつらせてしまう。
彼は何かに没頭している。その「何か」がハロ製作であると判明するのに、そう時間がかかることもなく……やはりディアッカは、顔を痙攣させた。
はっきり言おう。こんなイザークの姿、滅多に見られるもんじゃない。
珍しすぎて、笑いすら起きない――それが現時点の、ディアッカの状態だ。

「……何で、そんなもん作ってんだ?」
「話しかけるな、鬱陶しい!」

声をかければ、ばっさりと切り捨てられる始末。
故にディアッカはもう一度――今度は当たりをつけ、訊いてみた。

「……まさかと思うが……ラクス嬢へのプレゼント、とか?」


ばきっ。


ペンチを壊す所を見ると――図星らしい。

「……芸風、アスランと一緒じゃん」
「煩いっ! 仕方ないだろ、彼女はハロが好きなんだから!!」
「……だからって、被るのはまずいじゃん」

はあ、とディアッカは大きく息を吐く。
するとイザークは、怒ったように当り散らした。

「なら、どーしろと言うんだ!」
「どーしろって……言われてもなあ。そんなにラクス嬢の気、引きたいのか?」
「違う! 明日は彼女の誕生日だ! だから――」
「一ファンとして、何やら贈り物をしたい、と。いや〜、頑張るねえ、イザーク。あんな手強いライバル居んのに」
「煩い煩いうるさいっ!! 貴様に話した俺が馬鹿だった!!」

叫び、イザークは作品製作に戻っていった。
その後姿に、ディアッカがエールを送る。

「お前がラクス嬢に喜んでもらおうと思えば、それで良いんじゃねえ?」
「……?」

突然のアドバイスに、イザークは訝しげな眼差しをディアッカに向けた。
瞳に映るのは、これまた背を向けた、ディアッカの姿。

「そーゆーの、ちゃんと感じ取れる人だろ? ラクス嬢は」
「……分かっている」

机に視野を戻したイザークは、作りかけのハロを瞳に入れた。

これは真似事だ。
自分で考えたことじゃない。
これでは――……意味が無い。

「……貴様でも、まともなこと言うんだな」
「ひどいね〜え。貴様でも、なんて」

言うディアッカは、ひどく満足気な表情を見せていた。




翌日、クライン邸にイザークの姿があった。
今日はラクス・クラインの誕生日。彼女を祝うため、盛大なパーティが開かれ……彼の元にも届いていたのだ。誕生パーティの招待状が。

「イザーク。そんな隅っこでどうしたのですか?」
「ラク……ス?」

ラクスに話しかけるタイミングが見つからず、バルコニーで外を見ていたイザーク。すると彼の元に、主役自ら足を運んできた。

「いや……人ごみはあまり、好きじゃないので」
「私も、得意ではありませんの」

くすっ、とラクスが笑う。その笑顔がまぶしすぎて、プレゼントを渡す絶好の機会に、イザークは足踏みをしてしまっていた。


ラクスを直視できない。
プレゼントを出そうとポケットに入れた手を、引き出すことが出来ない。


ゆっくり流れる時間の中、どうにか話の種を探したイザークは――

「あー……あ、素敵な花飾りですね」

なぜか、目に留まった会場の豪華な花飾りに、話を振ってしまう。
するとラクスの口から、とんでもない言葉が飛び出した。

「あれは、ディアッカからの贈り物ですわ」
「ディアッカ?!」
「ええ。私のために、と」

イザークは……開いた口が塞がらなくなっていた。
あんな涼しい態度を見せながら、実はこんな盛大なものを用意していたとは。
さすがディアッカ、侮りがたし。

そしてこの事実がまた、イザークに手を引き抜かせることを躊躇させた。

ディアッカは、あれほどまでに豪華な贈り物で。
それに比べ、自分は……

「……でも、ディアッカの贈り物も嬉しいですけど、私は、貴方が来て下さったことが、一番嬉しいですわ」
「……ラクス?」

イザークは耳を疑った。
今、すごく……嬉しいことを言われた気がする……
なおも、ラクスの告白は続く。

「すごく貴方に会いたくて。今日の招待状も、貴方に一番に出しましたの。でも、貴方はお忙しい方ですから、来て下さるか、ずっと不安で……」
「来ないわけ無い」

彼は断言する。

「貴女に会うチャンスを、逃せるわけ無いでしょう」

言ってイザークは――ようやく、手を引き抜いた。
綺麗にラッピングされた包みが、ライトに照らされる。

「……私に?」
「貴女に似合うと思って」
「開けても、よろしいですか?」
「どうぞ?」

包装を取ると、中には髪飾りが入っていた。


綺麗な星型の髪飾り。


彼女はすぐに、その髪飾りをつけてみた。

「どうですか? 似合います??」
「とても」
「ありがとうございます、イザーク」

その微笑だけで、イザークの胸はいっぱいになっていた……





-end-


結びに一言
忘れもしない運命序盤、OPでミーアの姿を見て「ああ、ラクスって星型の髪飾りも付けるんだー…」と素直に思い込んで書いた一本(笑)
ちなみに当時、EDでミーア見つけても、「誰だろう、あのラクスに似てる人」で終わってました(爆)

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