種軸。AAはキラの部屋にて


〈迷子になったら、紅い風船を飛ばそう〉
〈とても綺麗な、フレイの『紅』ね〉
〈紅い風船の下に、パパはいつでも飛んで行くよ〉


陽の光の中、大きな手が、小さな紅い頭を撫でる。


〈だからフレイ。一人になったら『紅い風船』を飛ばして、パパ達を呼ぶんだよ?〉





迷子の紅い風船・pure






それは『夢』で『現実』の記憶。
フレイが見た『夢』であり、小さい頃、両親と共に行った遊園地で交わした『約束』。
幼い頃、家族で遊びに行った遊園地で迷子になり、迷子センターで一人、両親の迎えを待っていたフレイ。寂しくて、涙が止まらなかったフレイの手には、彼女を元気付けようと、係員がくれた『紅い風船』が握られていた。


紅い風船は、迷子の証。
一人で寂しい思いをしている証拠。


「迷子……」

呟きながら、フレイは鞄から『風船』を取り出した。まだ膨らんでいない、萎んだまま包装された風船は、ヘリオポリスの売店で買った物である。こんな物が売ってるなんて珍しいー―そんな理由で買った直後、ヘリオポリスはザフトの奇襲を受けてしまい、この風船も、鞄の中に入ったまま……
あの平和な日々が、とても遠い昔に感じる。

何も考えず――無意識下で、フレイは一つ、紅い発色のそれを取り出し、息を吹き込んだ。
あか。
ゆえに出来上がる風船も、あか。
鮮やかなフレイの『紅』。
同梱されていたヒモを風船の結び目に括りつければ、あの約束の『風船』の出来上がりである。


「こんな物っ……」


役に立ちやしない。
悔しさから、フレイは作り上げた風船を部屋の隅っこへと放り投げた。
紅い風船が宙を舞う。保護者を失った迷子のように、ゆらゆらと、不安定に落ちていく。
その姿がとても気になって……フレイはベッドの上で膝を抱えながら、チラチラと風船に目を向ける。放っておくことの出来ない、なんとも危ういその姿。
結局彼女は、再び風船を手に取った。
父との思い出を探るように――



「パパ……」



その囁きが消える前に、シュンッとエア音を響かせて、部屋の扉が開け放たれた。
現れたのは、驚き目を見開くキラ。ノックも何もなしに非常識な――なんて理屈は通用しない。
なんせここは、キラの部屋。
無断で部屋にいるのは、フレイの方。

「……おかえりなさい」
「…………ただいま」

居心地の悪い空気が、場を支配する。
多分――聞かれた。フレイはそう、悟っている。キラはこの艦に乗っている誰よりも耳が良い。逆に、聞き取れていないはずがないとも言える。



苦しめば良いんだ。
パパを見殺しにしたんだから。
パパを救えなかったこと、もっともっと苦しんで――



「……ごめん」

すると、祈りが通じたのか、キラは顔を背け、小さく懺悔の念を示した。
苦しそうな、悲しそうな、臨んだ表情がそこにあるのに。
フレイの心は、悲鳴を上げていく。


――痛い――




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