フレイとイザーク、扉越しの会話


ウソツキ






扉に触れる。
クルーゼの私室の扉に触れる。
かと言って、ノックをするわけでもない。
ただ、掌をくっつけるだけ。

中に家主はいない。居ないのも知っている。だから、こんな事をしているのかもしれない。
奥に居る少女を感じるために――


〈何をやっているんだ、俺は〉


こんなことをして何になるのか――そう、自分に言い聞かせ、小さな未練を残しつつ、彼は踵を返した。
刹那、

「……誰?」

奥から、声が響いた。
甘い声。
クルーゼが――なぜか、大切に扱う少女。
捕虜なのに、自分の部屋において。挙句の果てに、ザフトの軍服まで着せる始末だ。


一目見た瞬間から、自分の心に住み着いた少女――


「誰? そこにいるの……」

扉に声が近づく。イザークは……とっさに嘘をついた。

「……隊長に、用がある」
「今、いないわ。出かけてるみたい」
「……そう、か」

彼は嘘が嫌いだ。記憶の限り、初めてかもしれない。だからだろうか。ひどい罪悪感が心に生まれる。
しかしそれ以上に――嬉しかった。
初めて、彼女と言葉を交わして。

「……ねえ、私、いつまでここにいるの……?」
「そんなこと……知るか!」
「ごっ、ごめんなさい……」

少し声を荒げただけだったのだが……相当怖かったのだろう。扉の奥の少女は、おびえた声で誤った。
きつい口調になったのは、クルーゼへの不信感が原因だろう。
そう、これは不信感だ。

彼女のことを含め、問いたいことは沢山ある。
それが、ふとしたことで噴出した。

「……その、すまない。大きな声を出して……」
「わ、私の方こそ……変なこと、訊いて……」

少女の声は、未だに怯えている。
イザークは――当たり前ながら、捕虜になった事が無い。それゆえ、奥に居る少女の恐怖なんか想像もつかないが、しかし、彼の中にはある信念があった。


――女子供等、弱者は守るべし――


例えそれが、憎むべき連合の人間であっても。

「……大丈夫だ。貴様はもうすぐ、釈放される」
「本当?」
「……ああ」

ちくりと胸が痛む。
嘘をついた痛み。
けど、それは思いやりで――

「……あなた、ウソツキね」
「……何?」
「声が、嘘だって言ってる」

少女の声に、イザークから血の気が引いていく。
二度目についた嘘は……簡単にばれてしまった。
しかし、中の少女は笑っていた。

「でも、ありがとう。少し、励まされたみたい」
「べ、別に、俺は……」
「まだ……頑張れる」
「……そ、そうか……」

嘘だと気付かれても、力になれたなら……内心イザークは、少しだけ喜んでいた。
――が。

「大丈夫……」

呟きながら、フレイは涙を流していた。
気付かれない様に、そっと一人で泣いている。


――私が一番、ウソツキね――


心に、小さな棘が刺さる……





-end-


結びに一言
微妙に気に入ってるコンビ・イザフレ。
……けど、文章上手くまとまってくれず、話は撃沈(号泣)

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