忙しいカガリを連れ出すシン


「だから、あんたの言う道通るの、嫌だったんだ!!」
「なんだと?! なら、もっと反対しろ!!」

道端で、シンとカガリは、不毛な言い争いを繰り広げた。





過去と未来と刹那の安らぎ






カガリ。オーブをまとめる国家元首。
シン。オーブ在住の一般市民。

一見すると接点の見えてこない立場の二人は、今、オーブの中心部に位置する大自然に囲まれた一角で、火花を散らしあっていた。

「そもそもあんたが、ハイキングに行きたい〜……なんて我儘言わなきゃ、こんな事にならなかったんだよ!」
「仕方ないだろ! こっちは一週間も官邸に缶詰めで、発狂寸前だったんだから!!」

肩で息をするシンとカガリであるが、二人の顔は少しずつ……少しずつ、晴れ間を見せはじめた。どうやら大声でわめき散らしたことで、少しだけすっきりしたようである。

二人がいるのは山の中。どうして山の中にいるかと言えば、話は前日まで遡らなくてはならない。
シンは時々、オーブ官邸に忍び込む。
それはカガリに会うためだ。彼女はよく、自分の身体を考えず、仕事に没頭してしまう。この頃も連日のテレビ出演、それ以外は会議三昧で、きっと満足に眠れて無いんだろうな……と察し、昨日遅く、こっそりと、彼は官邸に用意される代表の部屋に忍び込んだ。
そして驚いたのである。

カガリの、やつれ具合に。


本当に、本当に――疲れきっている。


「あんた……大丈夫なのかよ」
「大丈夫じゃない、なんて言えると思うか?」

くすっ、と苦笑するカガリが痛々しい。

「明日は……休めるのか?」
「さあ。予定は入ってないが……明日にならないと、何とも言えないな」

儚げな表情を見せるカガリに、シンはたまらず、駆け寄った。

「絶対、休んだ方が良い……そうだ、俺の家に避難しろよ。置手紙でもおいてさ」
「ばかだな、お前。一国の代表が、そんなことしちゃまずいだろ」

疲れきったカガリは、もう立つ力すら残っていないのか、腰を浮かそうとしたものの、座る体勢を変えるに留まった。

「あー……でも、外に行きたいな。久々にハイキングでもして、自然の中でゆっくりしたい……」
「じゃ、明日行こうぜ、ハイキング! 今から言っとけば、大丈夫だろ?!」
「キサカが、首を縦に振ってくれると良いなあ……」

お許しが出れば、明日はのんびり出来る。それを聞いたシンは、キサカの元へと直行した。
明日一日、カガリを貸してくれ――と。

苦い顔をするに違いないと思った。
きっと簡単には、許してもらえないと思った。

けど――意外にもキサカは、二つ返事で了承した。

条件付きで。
カガリを連れて行くのは、官邸裏にある[ユラナギ]という名の小さな山にしてくれ、と。

そして翌朝、二人はハイキングに旅立って。
――思いっきり道に迷ってしまった。




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