執務室で起きた一騒動


時々思う。この人は本当に、一国の代表か――と。





頼りない人






「うわあああっ!!」
「何やってんだよ、あんた!!」

突然の叫び声は、執務室から響き渡った。

シンがカガリにコーヒーを渡して。
カガリはしっかり――確かにしっかり受け取って。
なのに彼が手を離した瞬間、カガリはあっさりコーヒーを零してしまって。

「あああっ、書類が!!」
「そっちじゃないだろ!!」

机に散らばる書類を守ろうとするカガリを諫め、シンは彼女のズボンを拭いた。

「早く冷やさないと……」
「うわ、良いよ、そんな――」
「良くない!」

ぴしゃりと言われ、カガリは何も言えなくなった。まるで怒られた子供のように、身体を小さくして、おとなしくシンを見ている。

自分の飲んでいたコップの水をハンカチにかけ、足を冷やしてくれるシンを。

「……シン」
「何?」
「どっちかって言うと、机……」
「却下」

おとなしく、腰を低めにしてチャレンジしてみても、皆まで言うまでもなく切り落とされる。

「あんた、自分を大事にしなさすぎ」
「そんなことは――今だって、自分より書類じゃん」

シンだって、机に敷き詰められる紙の束が、大事なものであることは重々分かっている。
けど、それでも、先に自分の身体を心配してほしい。

「大体……両手で受け取って、どうやって豪快にこぼすんだよ」
「仕方ないじゃないか。熱かったんだから」

俯くカガリを見て、シンは思う。

「……あんたって……意外とドジだよな」
「な、なんだと?!」

思わぬ言いがかりを受け、カガリは怒りの形相で立ち上がり――そして、左太ももに疼く熱があまりにも痛くて、一秒もたずして椅子に腰を戻した。



なんというか……
この姿を見ていると……



「……あんた、一応、オーブの代表……なんだよな?」
「なんだ、その言い方は」
「や……………………なんでもない」
「はっきり言え!!」

シンの、含みのあり過ぎる口調に、カガリは――今度は立たず、机をどんっ、と叩くことで、抗議の意を示した。
まだ、コーヒー塗れの机を。
おかげで、手がべとべとになる始末。

「うわ……ハンカチハンカチ……」
「はいはい」

ため息混じりに、シンは別のハンカチを取り出し、今度は丁寧に手を拭いてやる。

「なんか……大きな妹持った気分……」
「バカ言え。お前の方が年下じゃないか」
「……そーゆー意味じゃなくて」

呟くシンの目が泳ぐ。
年齢的なことではなく、精神的なことなのに、言葉のままと受け取り、真面目に返すカガリに、届ける言葉が思い浮かばなくて。

しっかり者かと思えば、抜けている所の方が多くて。
一国の代表としては、少し頼りないような気もするけど。


それがまた、大きな魅力だったり。


彼女は王様。
ちょっとだけ頼りない、僕の王様。




-end-


結びに一言
大きな妹を持った気分のシンと、口煩い弟を持った気分のカガリ。結構良いコンビ…??

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