疲れたカガリを休ませるため、シンは…


もう少し待って





「待て、シン。とにかく待て」
「やだ。待てない」

シンの身体が、カガリに伸びる。

「だっ……やめろ! 頼むから――」
「もう無理」

制するカガリを無視するシンの身体が、少しだけ彼女に触れる。
服が擦れる。
心音さえ聞こえそうなほどの距離間の中、シンはカガリの身体越しに、彼女の背後で光るスイッチに手を伸ばした。


ヴィン。


音が鳴って、それほど広くない機械だらけの部屋に、暗闇が訪れる。

「あああああっ! お前、本当に切ったな?!」
「そりゃ切るって。目の下に隈まで作ってんのに、これ以上電子画面の前に居させられるか」
「お前なー……これはゲームじゃないんだぞ?! 国際会議に参加を表明してる、各国の主張をまとめたものだ!」
「……で?」

怒りを顕にするカガリに、シンは冷めた態度を見せる。
おかげでカガリの勢いは、簡単に消え失せてしまった。

すごく静かな、シンの瞳。

「何であんたが、そんな事やってんの?」
「おまっ……そんな事って――」
「それ、秘書の仕事だろ? あんたがやる必要、ないじゃん」
「だが、私が把握してないと……」

彼女自身、疲れが溢れ始めているのだろう。最後の方は、声が小さくなってしまう。

知らないといけないこと。
知っておかないといけないこと。

でも、身体がついてこない。


「……なら、ちょっと休憩」
「え――」

突如、カガリの身体が倒れていく。
仰向けに。肩を、強い力で引かれて。

気付くとカガリは、シンの膝の上に、頭を乗せていた。

「〜〜ッ?! な、ななな、なんだ?!」
「何って、膝枕」
「膝枕?!」

やけにあっさり『膝枕』という単語が飛び出し、カガリは慌ててしまう。

「なんで、どーして膝枕なんだ!」
「だってあんた、疲れてんだろ? 疲れを取るには、寝るのが一番」


ふわ……


シンの手が、カガリの目に乗せられる。
冷たいわけでも熱いわけでもないぬくもりは、それだけで彼女を安心させた。

「……なんか……きもちぃ……」
「そぉ? なら良かった」
「…………十分だけ……このままでも良いかな……」
「良いんじゃない?」
「……わるい、な……」

言って――なぜか、規則正しい呼吸が響き始める。

「……は?」

さすがに、シンは慌てた。
ほんの一秒前まで喋っていた少女から、寝息らしいものが――しかも寝る素振りなんか全く見せない少女から聞こえれば、そりゃ慌てもするだろう。

手をどけると、カガリは目をつぶっていた。


寝ている。


「……なんでこんな、あっさり寝れんだよ……」


あきれてものが言えない。
年下とは言え――自分は男なのに。

「……男って見られて無い証拠か」

はじき出した答えに、シンは苦笑する。
そのまま彼は、髪をさらりと撫で、夢の中の少女に囁きかけた。


「すぐ追いつくから、覚悟しとけよ?」


もう少しだけ、このままの関係で。
もう少し経ったら、違う関係に動き出す。


だから、もう少しだけ待ってて――




-end-


結びに一言
もうすぐ大人になるから、それまで待ってて……みたな感じにしたかったのですが……撃沈(T_T)

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