哀しみを呼ぶブロックワード


子守唄






「眠れねーっ!」
「じゃ、子守唄でも唄いましょうか?」

嫌味ったらしく言うは、ルナマリア。そりゃそうだろう。昼間も昼間、真昼間から「眠れない」と叫ばれても、友好的な対応を取れという方がどうかしている。
方やアウルは、いじけた子供のような顔で、

「ヤだね。ルナの歌なんて聴いたら、耳が腐っちまうよ」
「なんですってぇ?!」

怒るルナマリアに、アウルは容赦なく続けた。

「ルナの怪音波なんて聴いたら、眠れるもんも眠れなくなるって」


好きな子ほど苛めたい――


アウルはこれを地で行く人間だ。つまり今までの発言は、全て愛情の裏返しなのだが……そんなもの、彼女が知るはずもなく。

「何よ。折角人が気を利かせてやったってのに……後悔したって、知らないからね!」
「後悔なんかしねーよ」

放たれる放火に対し、べーっと舌を出して応戦するアウル。
が――

「私の子守唄、近所じゃ大評判なんだから。母さんと二人で、メイリン寝かしつけたことだってあるのよ?!」
「か、あ、さ、ん?」
「そ。私の唄は、母さん仕込み――」

と――ルナマリアの表情が変わった。
いや、それよりも前に――アウルが。


アウルの様子がおかしい。


一瞬前まで見せていたふてぶてしさは、どこにも無い。
目を見開き、肩を震わせ……その震えは、いつしか身体全体に広がっていく。



「う――わああああああっ!」



絶叫は、突然始まった。




「アウル?!」

頭を抱え、膝をつくアウルを前に、ルナマリアは何が起こってるのか分からなかった。
どうして良いか分からず、とにかくアウルを抱きしめる。

「アウル、アウル! どうしたの? ねえ、アウル!!」
「かあっ……母さ……いなっ……ぁああっ!!」
「アウル、大丈夫だから。もう、怖くないからっ……」

彼女には、アウルが怖がっているように見えた。
母に――いや、「母」という言葉に恐怖し――それでいて、母の愛情を求めて泣き喚く、子供のように。


〈どうしよう……どうしたら…………あ!〉


アウルを落ち着かせる方法を考えるルナマリアの頭に、ふと、昔の光景が蘇った。
あれは、メイリン。
夜、お化けの話で、怖くて泣き出したメイリンに、安らかな寝息を立てさせたのは――



ルナマリアは、小さく口を開いた。



泣くアウルの耳元に小さな口を持って行き……そして、唄う。



小さく唄うは――子守唄。



響く歌声。
優しい声。
小さな小さな子守唄は、やがて、アウルの瞳をまどろませる。

「……んか……あったかいや……」
「よく眠れそう?」
「うん……もっと唄って、ルナ……」
「いいよ」


小さく優しく、ルナマリアは唄う。

何がそんなに怖いの?
何が、あなたを怯えさせるの?
あなたの過去に、何があったの?

訊いてもアウルは、教えてくれない。

そこにあるのは、自分がいて、隣にアウルが居るという現実のみ。
それが全て。

やがてアウルは夢に落ちた。
無邪気な寝顔は、とても愛しくて。

「おやすみ、アウル」

膝にアウルの頭を置くと、ルナマリアもまた、瞳を閉じた――……




-end-


結びに一言
お互いの過去を知らず、アウルとルナは同じ時を歩く……という雰囲気で。
てか、書いてる本人[ブロックワード]がよく分かってません(爆)

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