運命21話、ルナはアスミア事件に腹を立て…


「も〜らいっ」
「――えええっ?!」

その瞬間、ルナマリアの帽子は誘拐された。





悪 戯






デオキアの街に停泊中、久々に休暇を貰ったルナマリアは――色々あって――一人で街に飛び出した。


色々の理由は――推して知るべし。


鬱憤晴らしのように、ルナマリアは街を闊歩する。


〈何よ、アスランなんて……〉


ムカムカしながらウィンドウショッピングなんてやっても、結局のところ、気分は最悪なままで……そんな折、『彼』は現れた。
まるで風のように、後ろから。


一瞬の出来事だった。


「も〜らいっ」


声と共に、帽子が奪われる。

「ちょ……え? 何……」

訳が分からず帽子を追うと、逆光で顔を隠す少年が、ルナマリアの数メートル先に居た。
彼は楽しげに言い放つ。

「返してほしかったら、ここまでお〜いでっ」

帽子をひらひらと振りながら。
少年は……走って行ってしまった。

「……って、待ちなさいよ!!」

一拍置き、ルナマリアも走り出す。
少年から、帽子を取り返すために。


一発、ぶん殴るために。


帽子を取り返したい……というのもあるが、それ以上に、こんな屈辱受けたままミネルバに帰れない――そんな思いが彼女の中にあって。
しかしどんなに走っても、少年との距離は縮まらない。それどころか、どんどん広がっていく始末だ。

挙句の果てに、姿を見失ってしまった。

「……どっこ行ったのよ……」

悔しい。
ものすごく腹が立つ。

帽子を奪った少年がムカつく。
背後を簡単に許し、帽子を簡単に奪われた自分がムカつく。


心ここに在らず状態だったとは言え――


「……私、軍人失格じゃん……」
「へ? 軍人なの?」

狭い中小路に入った所で、上から声が響いた。

頭の上から、さっきの少年の声。

見上げれば、真上から太陽の光を受けた人物が、壁の上に座っている。さっきと同じ様、逆光で顔がよく見えないが。


軽やかに地に足をつけ、少年は顔を近づける。

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