がさがさがさばきばきばき。
そこらじゅうに生い茂る、腰ほどもある雑草を踏みしだき、行く手を阻む木のえだをへし折り、地を這う木の根を蹴っ飛ばす。
自然破壊なんてお構い無しだ、今は自分の命が一番惜しい。一体全体何事かと草むらから出てきたバネブーの真上を飛び越えて、走る、走る。ひたすら走る。

「ぎゃおおおおおおお!!!」
「はっ、はっ、は、はぁ、はぁっ!あ、ふ、ぐぇっ!」

自分の後ろから聞こえてくる、怒り狂っているのがそれはもう誰が聞いたってまるわかりな叫び声に怯えて、思わず足を踏み外す。
ばきばきとまたしても木のえだを折りまくり、さらに段差につっかかって顔面を強打。おまけに女にあるまじき声をあげてしまうはめになった。

「ぎゅおおおおおおっ!!!」
「は、は、あ、い、いてぇ。くそ!」

どんどんこちらへ近づいてくる獣の叫び声に悪態をついて、急いで立ち上がる。かかとの折れたヒールを脱ぎ捨てて、またひたすら走った。
さっき転んでパンストも電線したし、上のYシャツなんて鋭いかぎ爪にひっかかれたせいで下着が丸見えだ。とても人前に出られるような恰好ではないが、それでも必死に人影を探す。誰でもいい、ここらへんにこれるようなトレーナーなら必ずこいつを倒せるはずだ。
しかしかれこれ30分ほど走り回っているが、ゲームの中ではエリートトレーナーや山男がそこらじゅうをうろついていたはずの山の中は、今はおかしいぐらいに人気がない。


「ぎゅぅぅるるるるあああああああ!!!」
「あーもうっ!うるせぇなあっ!!このクソドラゴンタイプが!!」


飽きもしないで追いかけてくる後ろの生き物に向けて、喉が割けそうなほどの大声をあげる。威嚇にすらならないだろうが、いい加減逃げ惑うのは飽きた。助けてくれそうな人影も見当たらないし、そもそも追いかけられるのは性にあわないのだ。


「ぐる?……ぎゃおおおおおおっ!!!」
「かかってこんかいオラァ!!」


丁度近くにあったピンク色の、桃によくにた実が生っている木の枝を力まかせに引きちぎり、刀のようにそれを構えて敵を迎え撃つ。

もぎりとった枝から落ちたモモンの実が石に当たってべしゃりと崩れ、状況にそぐわない甘い香りを撒き散らした。


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