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瞼のおくで弾けた青い光が一瞬私の視力を奪う。何も見えないはずの光の中、そのさらに奥の奥で台座のような何かをみたようなきがして、担がれたままごしごしと目をこすっていると爽やかな風がふわりと私のほほを撫でた。それを感知した途端に鼻に流れ込んでくるさまざまな香りにゆっくりと目を開ける。

「・・・・・・・・!」

ナビィの言っていた通り、外の景色はとても綺麗だった。私達は湖の真ん中にある島の端っこに立っていて、今はもう日が沈む時間なのだろう。燃えるような太陽が沈んでゆく様子がよく見えた。さらに湖はとても透明度が高く、抱えられたままでも覗き込むとその底までしっかり見える。ときたまきらりきらりと何かが光るのは、魚のうろこだろうか。

「よいしょおっと、」
「・・・・!・・・・・っ!!」
「ん?・・・・あー、夕日ね。こっから見える奴、すっげーきれいでしょ」
『ンー、やっぱ外の空気はおいしい!』
「ははは、神殿ってなんか黴くさいもんね」

とす、と地面に下ろされ、久しぶりに素足で外の乾いた地面を踏む。つんつんとリンクの肩を叩いて太陽を指さすと、彼はそちらをみて目を細めて笑った。それと同時に帽子の中からナビィがふわりと飛び出てきて、人間が伸びをするような形で羽根をきゅっと伸ばした。ちかちかと細やかな光が彼女の羽根からきらめいて、太陽の光にかきけされ地面に落ちて消えていく。

「ねぇダーク」
「・・・・・・?」
「ダークはさ、食べ物って口にしても平気?薬は平気だったよね」

太陽が沈むその様をぼんやりながめていると、リンクが彼の腰に縛り付けてあるそれなりの大きさの袋から何やら色々なものを取り出しながら私にそう尋ねて来た。質問の意味が分からなくて一回首をかしげたが、とりあえず食べられないわけがないだろうと思って私は頷いておいた。

「そりゃよかった。じゃあ一緒にご飯を食べよう」
「・・・・・・・、」
「少しまってて」

ふんふんと何やら鼻歌を歌いながら、リンクは袋の中からパンと、チーズと、それから大きな瓶にはいった牛乳を取り出した。瓶には不思議な文字がかかれていたが、何故か読むことが出来た。−ロンロン牧場−だそうだ。

そこらへんに落ちていた枯れ枝や葉っぱを拾い、かち、かち、と火打ち石のようなものでリンクがそこに火を付ける。最初はじりじりとか細く燃えていた火は、次第に強く大きくなっていった。袋からさらに小さな鍋と鉄の棒を取りだしたリンクは、それで簡単な足場をつくり、鍋の中に牛乳をいれて温め始めた。牛乳の柔らかく甘い香りがそこらじゅうに漂い始める。しかし、あの袋の中はどうなっているんだろうか。あれだけのものがはいっていたのに外見からは全く変わったところが見えない。

『いい匂い』
「あーお腹すいた」
『我慢したほうがおいしくなるのよ、リンク』
「そうだけどさ」

運動したあとは牛乳温め直すだけでもめんどくさい。とぶちぶち文句を言いながらリンクはパンとチーズを適当な大きさに切って今度は削った木の枝に刺し、火であぶりはじめた。ちなみにこの切ったり削ったりという作業は全部背中の剣を使ってやっている。なんかすごい力をもった剣っぽいのにいいのだろうか、と思うも、何故かその剣はチーズを切ってもパンを切ってもまったく刃に油がついていないのだ。不思議現象だな、と無理矢理納得して私はぼんやりと火を眺めた。きっと袋もそんな感じなんだ。多分。

「ダーク、パン何切れたべる?」
「・・・・・」
「一切れでいいの?」
「・・・・・・」
「わかった」

とろりと溶けはじめたチーズと、僅かに焦げ目がつき始めたパンとを合体させて、リンクがそれを私に差し出してくる。あつあつのそれを慌てて受け取って、熱いから気を付けてねと言われるのに頷いてそれを口にした。少々荒い作りのパンの、小麦の味とチーズのまろやかさが口の中にひろがってほにゃりと顔がゆるむのがわかる。

「おいしい?」
「・・・・・・・・!」
「それはよかった。そのチーズな、この牛乳を買った牧場で売ってるんだ」
「・・・・・・?」
「うん。あれ、なんで知ってるの?」
「・・・・・・・・・・」
「文字読めるんだ。うん、そうだよ。ロンロン牧場ってところ」

明日になったら一緒に行ってみようか、と頬笑むリンクに私は一瞬ためらった。だって私はなにやら人ではないようだし、それに目の前の彼とほぼ同じ顔をしているのだ。それなのに連れて行くのか、私を、連れて行ってくれるのか。

「……………」
「ダーク?」
「………………、」
「そっか、よかった。ロンロン牧場は楽しいところだよ」

鉄製のコップになみなみと注がれ、渡されたホットミルクは甘くてどこか懐かしい味がした。

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