偶然人間の国、ニホンとやらで有名な木の苗を手に入れた。自分の両手のひらほどの大きさの苗は随分と細くか弱そうな雰囲気を醸し出している。途方にくれたまま、知り合いを訪ね歩いていると一人のアルラウネが人間の世界にくわしい奴を紹介してくれた。

「これはサクラと言うらしいんだが」
「サクラ?それ、確か肥料がめんどい奴だよ」
「へぇ」
「なんか、死体埋めなきゃいけないんだって」
「そりゃあ随分特殊な木だな」
「そう、しかも死体っても、人間のじゃないと駄目だそうだ。じゃないと枯れるってよ」

自称、人間博士が仰ることにはサクラという木は随分物騒な生き物だそうだ。それと共存している人間はすごい。へぇ、とあいずちを打って手のひらに収まっているサクラの木の苗を眺める。人間を食う木には見えないがなぁと呟くと、見かけで判断してはいけないと言われた。確かにそうなのだろう。

「サクラ、美しいそうだ。話で読んだだけで俺もまだ見たことがないんだが」
「ほう」
「上手く咲かせたら俺にみせてくれよ。なんなら肥料の調達だって手伝ってやる」

にやりと笑った彼に、頼むよと笑いかけて、どこに埋めようかとしばし迷った。上手く咲いたら皆を呼ぼう、知り合いを集めて、咲いたんだぞと。サクラがどんな花を咲かせるかは知らないが。

「そうそう、サクラの木の下でな、人間は宴会をするんだって」
「へぇ、俺も今、咲いたら宴会でもしようかと考えていたんだ」
「いいね、そうしよう。人間が騒ごうって気分になるぐらい綺麗なんだ、俺たちだって楽しめるだろうよ」



夜空に三角の月が輝いて、濃いくれないの花弁を美しい薄桃色に見せている。その年サクラは綺麗に咲いた。