人ごみ、僕はそれが好きです。なんでかっていうと、たくさん人が歩いているからです。僕は人ごみが好きです。とってもワクワクします。たのしいものがいっぱいです。人はみていて結構面白いからです。何一つ同じ顔がありません。

「僕は、小さな折りたたみ式の果物ナイフをもっています。それは、僕が小さかった時にお父さんにもらったものです。おとうさんはそれを、キャンプの時に僕に渡してくれました。僕が果物をむけるように、かしてくれたのです」

僕は嘘をつきました。お父さんにナイフをなくしてしまったといいました。本当は持っていました。僕はそれを、自分の胸ポケットにいれて隠し持っていました。僕は欲しかったのです。その果物ナイフが。小さな小さな刃物が。冷たい金属が。

「ナイフは中々暖まりませんでした。僕の胸ポケットの中で冷たくそこにありました。ナイフは人肌では暖まらないのです。ナイフが熱くなるその時は、火で熱せられるかお肉を切った摩擦でほんのり熱をもつときです」

僕は、果物ナイフがほんとうにしたいものが何か知っていました。果物ナイフは果物なんてきりたくありませんでした。果物ナイフはとても寒がりでした。でも、火で熱せられたくもなかったのです。

「刑事さん、ちょっと、僕の胸ポケットにはいっているナイフをとってみてください。きっと、貴方にもわかるはず」

今もナイフは泣いています。寒がり屋さんだからです。果物ナイフの柄を握った貴方にはそれが分かるはずです。寒がり屋のナイフは、あったまりたくて仕方がありません。そして僕は人ごみが大好きでした。僕らはとても気が会ったのです。