送っていってあげようか、そういって差し出された手は酷く暖かい。自分はそれを知っている。でも何故か握り返す気にはならなかった。

「迷子なんだろ」

送っていってやるよ、目の前の男が再度、手をこちらに向ける。なんだか距離が近くなっているような気がする。ごくりと唾を飲んで、彼のてを見つめる自分の耳に聞こえたのはしのびやかな笑い声。

「早くしてよ、俺はそんなに暇じゃないんだよ」

とお数える間に決めてよね、と男が楽しそうに言う。いち、に、さんのし、ごおろく、しちとはち、

「きゅう」

じゅう、とやけに赤い唇が、呟く前にその手をとる。いい子だねぇと男が笑う。そらこっちですよと言われて、手を引かれるままに歩きだす。

「・・・・・今更だが、俺をどこに送るってんだ」
「えっ、なにそれ」

自分で考えて下さいよと男は呆れたように言う。馬鹿にされたような気がして少々憤りを覚えながらも記憶をたどる。ああ、そうそう思いだした。神に誓ってもいい、自分は迷子ではないのだ。