ほのかに線香が香る部屋の中で、君と顔を合わせる。一日目は何も変わりがなかった。君は君のままだった。何も変わりはなかった。ただ、名前を呼んでも返事はしてくれないし、君の体は氷のように冷たかった。ただそれだけだった。


ほのかに腐臭漂う部屋の中で、君と顔を合わせる。一週間目には少し変化があった。君は少し乾いてきていた。防腐剤は君が腐敗するのを長引かせてくれたが、君の体に含まれる水分だけはどうしようもなかった。それ以外は、何も変わりはなかった。ただ、名前を呼んでも返事はしてくれないし、君の体は氷のように冷たく少し乾燥しはじめていた。ただそれだけだった。


ほのかに花の香りが漂う部屋の中で、君と顔を合わせる。一カ月が立つと少し変化があった。君の体はどんどん小さくなっていってしまった。僅かに漂う腐臭と、防腐剤の匂いは大量の花で隠した。君が好きな花だ。僕には良さが分からないが、君が前、この花を良く愛でていたことを僕はよく覚えていた。だから君の周りに花を敷き詰めた。それ以外は、何も変わりはなかった。ただ、名前を呼んでも返事はしてくれないし、君の体は氷のように冷たく、水分はほとんど失われてしまったようだった。ただそれだけだった。


ほのかに黴の香りがする部屋の中で、君と顔を合わせる。一年が立つとかなりの変化があった。君はいつの間にか何かに食べられてしまっていた。君を放置してしまった僕が悪かったのだろう。ごめんよ、忙しかったんだと言い訳をして前のように謝罪をこめて君のほほを優しく撫でる。君のほほはとてもつるつるしていた。僕は君の顔を持ち上げて、そのつるつるした唇にそっとキスをした。君は随分白くなってしまったような気がする。でもそれ以外は、何も変わりはなかった。ただ、名前を呼んでも返事はしてくれないし、君の体は氷のように冷たく白く光っていた。ただ、それだけだった。


その一日後に、僕は白くなってしまった君を洗った。その体の隅々まであらって、日光浴をさせて、君の事をきれいにした。ずっと寝た切りだったんだ、どうだい久しぶりの散歩は、気持ちいいだろう。二人でベンチに座り、そう君に語りかけると君はかたかたと歯を鳴らして返事をしてくれた。僕は感涙にむせび泣いた。こんなに幸せなことは無かった。君をみる皆は、必ず不思議な表情をして僕の事をみたが、僕はそんなことはどうでもよかった。ただ、どんな形でも君とずっと一緒にいられるだけでよかった。