その部屋に通じるドアを開けた時、おいやめろよと思った。強く思った。なんでいるの、と小さく漏れた声に反応して、彼が頭を上げる。いつもと違ってひどく青い顔をしていた。唇が声を出さずにぱくぱくと動いた。超音波のような、よくわからない音がきぃんと鼓膜を揺さぶる。

・・・・・・わからない

顔色が悪いのも当たり前だ。だって旦那、あんたこないだ死んだんだ。車にどかんと跳ねられて。だから俺様、あんたの遺品を整理しようと、このドアを開けたんだ。
ベッドの上に佇む、彼に近づく。泣きそうな表情をしているのをみて、いつものように頭を撫でてやろうと思った。そう思って伸ばした手は空を切った。旦那がいるそこは少しだけ空気が冷えていて、ああ、これが幽霊なのだ。このお方も例外ではないのだ。

「旦那、いつまでいられるの」

ぐ、と喉をならしてうつむいてしまった彼に声をかける。しじゅうく、と小さな音で答えが帰ってきた。やめろよ、とまた思った。死んじまったやつと、なんでそんなに、一ヶ月半も一緒にいられるんだよ。かみさまが考えることはどうも頭がおかしい。49日も、もうとっくに死んで灰になっちまった奴に家にいられてみろよ。気が狂っちゃうから。



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