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「…………」


全て読み終わった日記帳を、ぱたりと閉じる。人が一人、鬱になっていく様子を順を追って見せられたようでなんだか気分が悪かった。ナツキの視点でみただけだから本当にこうなのかはわからないけど、書いてある事だけから判断するとこの子の家族は随分とナツキに辛辣なようだ。ロコンの尻尾が増えないからって、そんな頭ごなしに怒る必要はないと思う。日記によると、ロコンの尻尾は愛情で増えるらしい。でもナツキのロコンは中々尻尾が増えなかった。そのせいで皆に責められ『ロコンが嫌い』だと思い込んでしまった彼女。抜け毛がすごいのに、まったく梳かれた様子のない毛並みはその表れだった。やっぱりな、おかしいと思ったんだ。


「誰か変わってくれたらいいのに、……か」


もう一度日記を開いて、最後のページに書いてあるその文字を指でなぞる。その下にはロコンをとりにいかなきゃと書いてあった。つまりこの最後の日記をナツキが書いた後に、何故か私がこの体に入ったのだろう。私にとって最悪なことに、彼女の願いは叶ったのである。


「私に、どうしろって言うわけ?」


変わってほしい、それが精神的に追い詰められていた彼女の望みだった。何を変わって欲しかったのだろう。ロコンと旅をすること?それとも家族になにかしてこいと言われてた?ジムを制覇するとか、チャンピオンになればいいのだろうか。でもそんなことは日記に書いてなかった。何をすればいいのか、どう進めばいいのかわからないのは私も一緒だ。


「……前途多難だわ」


膝の上で眠る、ふかふかのロコンの毛並をゆっくりと撫でる。リアルなポケモンと触れあえたのは嬉しい。嬉しいのだけど私も、誰かとこの状況を変わって欲しかった。
いや、ナツキには酷な事かもしれないけど、全部元に戻ればいいと思う。だって十年だよ、この世界で十年生きてきたんだよ。なんでそう簡単に捨てちまったんだよ。私も元の世界で十八年生きた。もちろん嫌なことだって沢山あったし二次元に飛び込みてーとか考えた事もあったけど、家族や友人たちと築いた関係をこんなことで捨てるのは嫌だよ。戻ってきてよ、本当のナツキ。私にこの体は合っていないんだ。


目を瞑って、ベッドに仰向けに倒れ込む。一度眠ってめが覚めたら、全部元に戻っていたらいい。そんな事を考えながら、私は眠ることにした。どうせその願いはかなわないんだろうけど、せめて夢の中だけでも前の世界に戻りたかった。
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