ユウダイ
2018/04/09 20:48

予感がした。

何の、とはうまく言えない。初めて彼と出会った時に思った感情は今でもよく覚えているにも関わらずだ。

一目見た時に思ったのは、そう、「研磨されていないエメラルド」。




昔から鉱物が好きだった。細工され、美しく光り輝く宝石。生き物の姿を変える力を秘めた進化の石や、特定の技の効果を長引かせる不思議な岩。古代ポケモンのDNAを内包した貴重な化石。エトセトラ、エトセトラ。

だから鋼タイプや岩タイプのポケモンも好きになった。一本芯が通った個性的なポケモン達。美しい鉱石から生き物を作り出せばきっとこんな形になるに違いない。その姿に魅了され、旅をしていくうちにいつの間にかホウエンの頂点になっていた。

それも当たり前といえば当たり前なのかもしれない。石は美しく、力強い。それを具現化したようなポケモンを持っているのだからこれもまた、必然だ。欲しい石があれば自ら産地へ向かい、手に入れて手ずから研磨する。納得がいくまで磨き上げた鉱石はこれほどない輝きを放つ。僕の手持ちのように。

ただ、問題は。

「退屈だな……」

誰もたどり着けないチャンピオンの座なんて虚しいだけだ。それは四天王が強すぎるのか、それともホウエンのトレーナー自体の質がそこまで良くないのか。恐らくどちらもかな、と思ってチャンピオンの間でため息をつく。四天王に挑む人間が現れたと思ったらまたもやとんだ肩透かしだ。プリムのユキメノコのシャドーボールでノックアウトされたフーディンの中継映像は、手持ちが全滅した挑戦者が膝を折る前に見るのをやめた。

「…………結局、誰が来たって僕が一番強くて、凄いんだけどね」

つまらないな、と天井を見上げる。チャンピオンになってから最後に戦ったのはいつだったか。もうそれすら記憶にない。中々出番がないね、と手持ちから出したメタグロスの頭を撫でる。

欲しがる者は多いけれど、実際そこに立ってみれば酷く退屈な王座。あまりにも挑戦者が辿り着かないなら友人に押し付けてしまおうか。

本人が聞いたら怒られそうなことを思いつつひんやりとした石の感触を掌で楽しむ。生き物としての暖かな熱は感じられないけれど、これぐらいの温度が僕には丁度良かった。






「そういえば…」

トウキが石の洞窟に面白いものがあるって言っていたっけ。
ムロタウンのジムリーダーである青年の顔を思い出しながらマルチナビを開く。数日前に届いたメールには中々見掛けない珍しい石や数千年前の壁画、という文字が書かれていて、もっと早く確認しておけばよかったと柄にもなく思った。



「君にこの技マシンをあげよう」

ムロタウンの石の洞窟にて。親父から頼まれたのだ、と言って手紙を渡してくれた少年(名前はユウキだそうだ)へお礼にお気に入りの技マシンを渡す。親父がわざわざ頼み事をする、つまり社長の目から見ても将来有望な若者なわけだ。上着にはムロジムのバッジがつけられていて、実際に磨けば光りそうな逸材ではある。

「………それじゃ、僕は先を急ぐから」

彼はきっと他のジムにも挑むのだろう。そこで研磨されるか、屑石となるか。ただ出来れば綺麗な宝石となって、僕の前に現れて欲しい。

意志の強そうな瞳を持った少年に別れを告げて洞窟から抜け出す。





「そういえばダイゴさんてさぁ」
「なんだい?」
「どうして俺にいろんなものくれたの?」

技マシンでしょ、デボンスコープでしょ、えーとあとはひでんマシンに夢源の笛、それからお気に入りのダンバルも。


「青田買い、ってやつかな」