2016/10/15 11:17

これが恋なのだろうか。

スバルとしたキスはすごくふわふわした。心臓がぎゅっと握られたような気持ちになって、腹のあたりから何かが湧き上がってくるようだった。こんな気持ちは初めてで、暫く動悸が止まらなかった。スバルは二回目のキスのあとにはっと我に返ってなんで二回もキスしてんの俺達?!と叫んでいたけど、その旨を伝えたらアッハイと納得しておとなしくなった。

「……なんか初恋の女の子みたいなこと言ってるけど、ラインハルトって好きな人とかいなかったわけじゃないよな?」
「スバルかな」
「っセンキュー!……じゃなくて子供の頃とかさあ、そういう気持ちになったことなかったか?あと今好きな人とか」
「うーん……スバルかな」
「ハイ!わかりました!ありがとうございます!剣聖様の好きな人は過去さかのぼっても俺オンリー!……何故って聞いてもいい…か?」
「何故…」

どうしてだろう、と首を傾げた。最初は確かに友達だと思っていた。いつの間にか目で追うようになっていた。後姿が見えるだけで心が安らいだ。時々話しかけられればよかった。そのうち常に話をしたいと思って、触れたいとおもって、羨望のようにスバルを見つめ始めた。それは、どうしてだろう。鮮明によみがえるプリステラの一幕、あの時の、それが当たり前だとでもいうような彼の表情。おそらく自分はあっけにとられたような表情をしていただろう。

「……プリステラ、で僕とスバルは一緒に戦ったよね」
「ああ」
「その時の言葉が、うれしかったんだ。スバルは覚えてないかもしれない。でも僕に、足りないものを補ってくれるなんて、そんなことを言ってくれる人は……初めてだった」

世界に愛されていた。望む加護もなにもかも、ほしいと思えば手に入った。加護の力は貴重だ。100人に一人は使えない加護を持ち、1000人に一人がすこし有効な加護を持ち、万人に一人、いや、限られた人間だけが強力な加護を持つ。加護の力は強力だ、それだけで戦況を変えてしまうほど。

「だから、君に惹かれたんだと思う」
「…俺、男だけど」
「性別は関係ないよスバル。些細なことさ」

きっとナツキスバルが男でも女でも、ラインハルトの気持ちは変わらなかっただろう。なんとも言えない表情をしている友人の手を取る。断られてもよかった。ラインハルトに必要なことはただ自分の気持ちを言葉にすること、それが最善手だとわかっていた。……目の前の英雄は押しに弱い。

「君の右手はエミリア様に、左手は・・・レムという女の子に、膝はベアトリス様にだったか」
「おう、予約済みだ」
「スバルは僕のことがいやかな?」
「……舐めてんの?そもそも嫌だったら男にキスなんかしねぇぞ俺は」
「今のは僕が悪かった。……そうか、スバル。ありがとう」

すこし赤くなった頬がどうしようもなくかわいい。この心臓の鼓動が聞かれてしまってやいないだろうか。

「こんな気持ちは初めてだ。産まれて初めてなんだ、スバル」

ラインハルトの告白を真顔で聞いていた英雄さまは、少しの沈黙ののちににっこりと笑っていいぜと言った。お前の赤い髪もキセキみたいな造形もその心も好きだし、と言って。

「右手も左手も膝もべつの可愛い女の子のもんだ。心はエミリアに捧げてる。でもよ、胸ぐらいだったらお前に渡せるかな」
「スバル……」
「おいでラインハルト」

手を広げられて、そこにふらふらと引き寄せられる。くれるといった胸に頭を預ければとくとくと鼓動が聞こえた。自分の早鐘のような心臓の音よりは少し落ち着いているそれは心地いい。ずっと聞いていたいぐらいだ、と目を閉じながらそう思った。

「ラインハルト」
「……うん」
「俺に何をしてほしい?」

さらさらと髪を撫でられる。心臓がまた跳ねる音がした。今の自分はどんな表情をしているだろうか。スバルの胸から顔を上げて、こちらを見下ろす男の顔を見つめる。熱い欲望がそこから湧き上がってくるような気がして、唇が震えた。

「キスを。どうかキスを、僕に…」

猫のように笑った男の瞳にははしたない顔をした自分が写っていた。