2015/07/10
虫に食われたことがある。膿んだ傷口にうごめく生き物がいる。払っても払っても次の日にはまたあらわれている、米粒のような形をしたちいさな幼虫。膿んで液状になった肉をすすられている。

そんな傷口は大きな傷跡になって、体に残ったままだ。

「痒い」
「だめだよ旦那。いじらないで」

膿んだ傷口をかこうとした手を掴んで止める。ぬる、と汗で掴んだ手のひらが滑る。どこもかしこも汗まみれだ。汗まみれで泥まみれで血まみれだ。味方の助けは未だこない。当たり前だ、先程文を出したばかり。

「汚い痕になっちまいますよ」
「だが、痒い」
「それを我慢するんだよ」

気が狂いそうだ、ともう半分ぐらいは狂気が混じっているような瞳がぐるぐると動いている。唇をかみしめているせいで新たな血が地面に滴り落ちる。それもこれも一人で突っ走ったあんたのせいだよ、と口からこぼれ出そうになった言葉を胃の腑に押し込める。ぐ、と喉が鳴った。気が狂いそうなのはこちらも同じだ。薩摩の地は灼熱、傷が膿むのも数倍速い。弱った箇所が、生きながらにして腐り始める。

「佐助」
「ん」
「………痒い」
「うん」

風呂に入りたい、と泣き事を言う若子の頭部を慰めるように胸に抱いた。白く膿んだ傷口がざわざわと蠢く。そこを掻き崩したら醜い痕になってしまう。ああ、腐った肉の匂いがする。