『万事屋、テメーなんでここに』



 ほんと、せんべい持ってきただけだ。
 テメーが届けろ、あの人の最後の激辛せんべいが俺の持ってきたヤツだなんて、やっぱり間違ってる。

 お前さ、沖田くんの縁者に攘夷浪士がいたら立場が悪くなるなんて、これっぽっちも考えてないだろ。
 ミツバさんの最期にケチがつく、そっちのが嫌なんだろ。
 だったら何もかも、いっぺんにきれいにしてくりゃあいいじゃねえか。
 俺なんぞが江戸観光につき合って、倒れた時にそれなりの手当てはして、見舞いなんか行ったりして。
 違う。あの人はそんなんを望んでんじゃねえ。

 もしかするとテメーと言葉を交わす気もないかもしれねえ。触れ合うことすら、望んでないかもしんねえさ。
 でも逢いたいと思うくらい、許してやれよ。
 ガラス越しでもいい。ほんの一瞬目を合わせるだけでもいい。
 言われたことしかしねえなんて、テメーは幾つだお子ちゃまか。まあウブっぽかったしジミーくんも純情と書いてウブと読むとかって笑ってたけど。いやいくらなんでもこの期に及んで、それはないわ。
 バカなのキミ、そんなさぁ、血だらけだよ顔。そんなん見せに行くの。バカなの。
 もしかしてさぁ、一緒に死んでもいいとか考えちゃったりしてんの。ほんと、馬鹿なの。あんな綺麗な人が、そんな馬鹿なこと望むと思うの。
 この辺もう俺の想像でしかないし全然見当違いかもしんないしだいたい俺には関係ねえ話だから首突っ込むのよそうと思った矢先にタイヤに木刀ブッ刺してる俺に言われたかないだろうけどよ。

「こいつはテメーらで届けてやんな」

――あの人もまた、真選組の一人だったんだろ?







 クルクルクソ天パ糖尿ニート無職野郎が、総悟を連れてきた。
 とどめを刺すのは総悟の仕事だと、薄っすら考えたような気がする。
 とにかく事は全部済み、ひとつ俺の思惑から外れたのは山崎の馬鹿が口を割っちまって、結局近藤さんを含めた真選組を巻き込んじまったことだ。
 総悟は直ぐに病室に戻った。俺は別口で同じ病院に送られた。脚は撃ち抜かれてたしひとつひとつの傷は大したコトなかったが確かに負傷箇所は多くて、


――少なかったとしても、行くつもりはなかったんだが。


 死に目には会わなかった。
 総悟が看取ったと処置室で聞いた。
 万事屋の馬鹿はあんな騒動の真っ最中にも関わらず、せんべいの一枚も割らずに運んだようだ。でけえし辛いんだけどコレ。馬鹿なのあいつ。重病人にこんなの食わせていいと思ってんの。何してくれてんだクソクルクル天然…….いやもういいわ。疲れた。

 なんで野郎がミツバと居たのか。アフロ山崎が詳細に報告してきた。ついでになんで山崎がアフロになったかもわかったがそれはどうでもいい。やっぱり総悟に無理やり引きずり出されたらしい。
 そこで少しでもホッとしたのは、俺が甘いのか。

 なあ、ミツバ。

 お前は口に出さなかったから、もう俺の想像でしかないし全然見当違いかもしれないな。
 これで良かったのか、俺にはわからないんだ。
 そもそもお前を武州に置き去りにしたことから、間違ってたんじゃないのか。
 自分の信じる道を進め、とあの日お前が言ったような気がしたのは、俺の思い込みだったのかもしれない。お前は、本当は、ほんとうのこころの奥底では、


――俺を恨んでいたかもしれないよな


 幸せになってほしかった。
 ただ、それだけだったのに。
 せんべい齧ったら辛過ぎた。これだけは理解できねえしする気もねえが、文句ならお前に言えば良かった。


 俺の口から響いた音とほんの少しずれて、別の音がしたような気がするんだがこれも気のせいか。



――それとも、最後のせんべいくらい、俺たちと食おうと思って……?



目次TOPへ
TOPへ


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -