「なんで何にも言わねえんだ、おまえは」
変死体描写あり。





 坂田が連行されたのは、明け方近かった。
 総悟が帰るなり、俺の部屋の障子を開け放った。

「手こずりやした。こっちゃ十人以上いたってのに」
「嫌味言いに来たんなら帰れ。聞いてる暇はねえ」
「嫌味ももちろんですがね、聞いときたいこともありやして」

 無表情な顔でしっかり他人の部屋に上がり込み、真顔で言った。

「暴れる暴れる、こっちゃァほとんど病院送りでさ。怪我しなかった奴なんざひとりもいやせん。なのに捕まったとたん、借りてきた猫みたいに大人しくなりやした」
「だから?」
「だいぶ手荒な真似してくれたんで、こっちもやり返しやしたぜ。そんくらいしねーと収まらねえんで、大目に見てくだせえ」
「それだけなら出てけ」
「いやいや。わざわざ胸糞悪ィ思いして確かめに来たんで、答えてもらいます」

 総悟は顔色を変えない。

「先日幕府のエライのが変死したそうです。名前は、」

 こちらが血の引く思いがした。
 あの、幕臣だ。
 なぜそれを総悟が。

「変死も変死、尻の穴犯された挙げ句ナニを切り取られて、出血死だそうです。外聞があるんで、病死ってことにしたかったようですが」
「……」
「正直あのジジイのナニが、アンタのケツに入ったことがあんのかどうかはどうでもいい。アンタ、あのジジイとどうやって別れました?」
「……」
「ああ、ちなみに切り取られたナニは切り刻まれて、バラ撒いてあったそうです。もっとおっかねーことに、切られたときはジイさん生きてたようですね。自分のイチモツがバラ撒かれてるとこ見ながら死ぬなんて、嫌だなァ俺は」

 怨恨。
 しかもそれは、寝取られた者がするだろう殺し方。

「確かに円満に別れてねえな」

 あのジジイは俺が邪魔になった。
 けれども暗殺は難しいと思ったんだろう。手厳しく追い払い、俺が街を流し始めたのを聞いてこれ幸いと、嗜虐の質のある男たちを差し向けたのだとしたら。
 だが一度や二度では俺が飽きて、またジジイのところに戻ってくるかもしれない。
 特殊な性癖を持つ連中を常時提供できる団体。

――たかすぎ、

「坂田は、無実だ」
「そうでしょうね。だがその旦那は黙秘権行使でしてね。こっちの気遣いはしてくれるんですが、あとはダンマリなんでさあ」
「……なんでだ!?」
「さあ。ひとつ言えることは、」

「わかってる。この黙秘は坂田に不利だ」

「そーいうことです」

 総悟は立ち上がりしなに言うのだ。

「不当逮捕だって言い立てないトコ見ると、案外当たりかもしれやせんぜ?」

 そのまま足を引き摺りながら背中でスパンと障子を締めた。
 当たり?
 あいつが、加担したってことか。

(それは、ない)

 坂田との会話を思えば簡単に答えは出る。
 俺が他の男と寝るのが、嫌だったと言ってた。
 他の男には媚を売り、坂田には口を閉ざして堪えたのが嫌だった、と。

(それが嘘だったら……?)

 二人きりの、特殊な空間で、予想外の親密感が沸いて、疑似恋愛に、

 そんなことはない。絶対に。
 でもその感情を持ったのはいつからなのか。高杉の艦に乗る前か、後なのか。
 前からだと信じたい。けれど坂田の口から言ってほしい。
 そうすれば近藤さんも総悟も、信じてくれるのに、


――なんで何にも言わねえんだ、おまえは


 自分を知られるのを、極度に恐れる癖。
 なのに、受け入れられているか、確かめずにいられない癖。
 今、それがおまえを確実に死に追いやっているというのに。

「副長、」
「山崎……」
「旦那の取り調べが終わりました」
「今日は、だろ」
「いいえ。終わりです」
「!?」
「旦那はサインしました。高杉と共謀し、副長に害を成そうとした、と」



 俺は、何を信じたらいいのか。




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