ソーリー・ベイビー


「金時、きんときィィィ!!」

 仕事中だとわかってはいても、どうしても電話を掛けずにはいられなかった。

「明日カノジョが来るんだけどォォォ!?」




 渋々ながらも赤ん坊を預かって二週間。
 一週間かそこらで帰るんだろうと思ってたちびっ子は、
『無理。妹、行方不明』
 のお袋のひと言で、いつまで預かればいいのかわからなくなった。
 慣れない子守に苛ついていたところに更に追い打ちを掛けられ、頭に来たけれどさすがに不憫になった。
 金時の言うとおりだ。
 赤ん坊だって会話を聞いてる。
 意味はわからなくたって、言葉の調子や雰囲気で楽しい話か嫌な話かくらいはわかるらしい。俺がお袋と電話で話すと大抵泣く。

 名前はなんつーんだ、と初日に電話したら、知らないと言われた。どんだけぶっ飛んだかあちゃんだ。赤ん坊のも、俺のも。
 知らないじゃ済まされねえから、「戸籍謄本で調べてこい!」と叫んで反対される前に切った。その返事が一週間後に来て、わからないどころか親も行方不明だと。

「名前もわかんないのかぁ。おばさんが調べ方わかんないんじゃなくて?」
「本籍地が地方になってる。本人証明がねえと取れねえらしい」
「そっかー……、でも名無しじゃ可哀想だよな」

 相変わらず金時は慣れた手つきで赤ん坊を抱いてあやしながら、さすがに顔を曇らせた。

「じゃあさ、俺たちでつけちゃおうぜ」
「はアァァ!? おま、なんつーことを!?」
「まあまあ。確かに人生における最初のプレゼントをお蔵入りにするのは良くないよ? でもわかるまでテキトーに呼ぶのもどうかなぁ」
「おいとかお前とかでいいじゃねーか」
「うわ、イヤなお兄ちゃんでちゅねー。こういうのが女の子に嫌われるんでちゅよねー?」
「現在進行形で好かれとるわ!」
「わかった。お母さんが帰ってきても使えるような呼び方すればいんじゃね?」

 金時は俺の魂の叫びをサラッと無視した。

「俺は店で、お客さんのことベイビーちゃんって呼んでるよ。それなら後で使えるし、赤ちゃんって呼ぶよりいいカンジじゃねえ?」
「お前のその感覚は俺にゃわからん」
「慣れるよ、慣れ。天使みたく可愛いもん。ベイビーちゃんがいいよねー?」
「ダァ」
「ほら、気に入ったって」
「そうかよ」

 呑気な金時は嬉しそうにしてたが、俺は不安になってきた。

――もしかして出生届、出してねえとか?

 イヤイヤイヤ。ないない。

(でも、あのお袋とその妹だぞ?)

 だからって勝手に名前付けるわけにもいかないし、

「そうしよう……」

 他にいい案も思い浮かばない俺は、金時の案に乗るほかなかった。
 だがこれが、金時が呼ぶとえらく様になるのだが俺がやると緊張して吃る。噛む。その結果赤……ベイビーがぐずる。
 昔からそうだった。金時は人づきあいに関してはとてもスマートだった。上手く立ち回ってることを誰にも悟らせない。誰にでも当たりが良くて、それでいて勘違いされそうになるとスッと引く。関係を壊さないままに。喧嘩っ早い俺とは正反対だった。

 そして乳飲み子にさえそのスキルを惜しげなく発揮する金時に、俺は頼るばかりだ。何しろ昼間は学校に行くから家にはいない。俺が面倒見るのはせいぜい夕飯と、風呂に入れて寝かせるくらいだ。
 金時ときたら、一日中つきっきりで、朝昼と飯を食わして、おやつまで気を配る。アレルギーがあるかもしれないから、と根気良く少量のおかずを作って食べさせてみたり、保険証がないのに無理言って知り合いの医者に診てもらって指導を受けたり、手間を惜しまない。

 だから、金時の頼みを断るなんて、俺には考えられないことだったんだ。

「あのさ、悪いんだけど……、レンタルでベビーベッド欲しい」
「?」
「イヤおむつ替えたりするときにさ。腰に来るんだよね、地味に。ここに置いていいか?」
「ああ、そうだな。俺のベッドの横に置けばいいか」
「……カノジョ、呼べねえな」
「仕方ないだろ。そんなに来ることねえし」

 それを聞くと金時は少し申し訳なさそうな態度を潜め、じゃあついでに遊ぶスペースと、キッチンに入れないように柵が欲しいと言い出した。

「俺が費用持つから。あと、コンセントカバー。けっこう怖いんだよ」
「俺も半分出すから」
「学生さんだろ。ここは社会人に任せなさい」

 次の日帰ってきたら、ここはドコんちだろうと疑うほど可愛らしくイメチェンされていて腰が抜けるかと思った。

「一緒に買い物行ったんだよねー? そしたら、これ気に入っちゃってさ。可愛いだろ」
「カワイイカワイイって、どこの女子高生だテメーは」

 天井からはくるくる回って音楽が鳴るおもちゃが吊るしてあるし、床(ウチはフローリングだ)にはカラフルなビニールマットが敷いてあるし、起き上がり小法師だの、原色で彩られたラッパだのガラガラだの、

「夜は……ダメだからな」
「あー」
「一緒にお片づけしようね?」
「あー?」
「大丈夫、金さんが手伝ってあげるからねー」
「うきゃ」
「あー笑った! 見た? 十四郎」
「見た見た」
「こんなかわいい顔に煙草の煙なんか掛けないで欲しいよねーベイビーちゃん?」
「ダァ!」
「ちゃんと換気扇の下で吸ってるって!」


 そう、初日に金時は俺の部屋を全部チェックして行きやがった。

「灰皿は当分冷蔵庫の上な。食べちゃったら大変だから。あと小さい物は全部お前の目線以上の高さンところへ移動! 赤ちゃんはなんでも口に入れちまうし、飲み込んじゃうから」
「おー……」
「すぐハイハイもするだろうし、掃除も毎日すること!」
「夜は掃除機かけらんねえ」
「じゃあ俺がやっとく。十四郎、自炊出来るようになった?」
「いや……」
「夕飯は一緒に食えよ。当分作っとくけど、離乳食の作り方覚えないと」
「マジで?」
「そうだよ! ちゃんとモグモグ出来るように、食べやすい大きさとか固さとかあんのよ。教えてやっからさ」
「うん」

 そんな具合に金時が仕切って、俺は金時に言われた通りオロオロやってるだけで、いったいどっちがメインなんだかわかりゃしない『分業』体制が今のところまだ続いている。



 とはいえ、やっとペースが出来てきたと思った頃。

「土方くん、最近冷たい」
「あ? 用事があンだ、しばらくほっといてくれっつっただろうが」

 彼女が不満をぶちまけてきた。
 だって、たった二週間だぞ?
 まるで会ってないわけじゃあるまいし、学校行きゃ顔も合わせるし昼飯は一緒に食うし、何が不満なんだ。イヤだいたいわかってる。

『二人っきりで遊びたい』
「だから! 当分無理」
『当分っていつまで? それになんで?』

 俺の勝手だろう、と喉まで出かかったが飲み込んだ。高校のとき、おんなじように女子を怒鳴りつけて泣かし、総悟にバカにされたのを思い出したからだ。あのとき金時は少し笑って、『十四郎は正直だからなぁ』って言って、その後は黙って俺の愚痴を聞いてくれた。

「あのな。ちょっと実家でゴタゴタあってだな」

 嘘じゃない。まるっと正しい。俺ならこれで引っ込む。でも、彼女はむろん引き下がらない。

『ゴタゴタって? 大変じゃん、手伝うよ』
「いや身内のことだから」

 お前は俺のお袋とか知らないだろ、身内気取りかコノヤロー!? と叫びそうになったが堪えた。

『ねえ……何か隠してる?』
「隠してない」

 ここで初めて嘘ついた。言えるか?『ウチで姪っ子預かってマス、八か月デス』なんて。ちょっと待て八か月前俺は何してた、少なくともこの女とはまだつき合ってなかった。
 マズイ。

『じゃ、部屋片づけに行ってあげる。そんなに大変ならご飯も作ってあげるし』
「イヤいい」
『なんで? 私に見せたくない物でもあるの!?』
「……ないけど、でもいい」
『行く! 明日行くから!』
「オイィィィ!? ちょっと待てェェェ」
『お昼過ぎに行くね〜』

 ぷー、ぷー、ぷー、


 そして俺は金時の留守電に絶叫する羽目に陥った。
 金時はもう出ない。仕事に入ったんだろう。俺が知ってるのはプライベート用のケータイで、仕事中は電源切ってるって言ってたし。

「飯、食わねえとな」
「だぱん」

 子どもには関係ない。腹は減るし眠くなる。下の世話もしてやらないと。
 金時が作って置いてったうどんをベイビーの口に運んでやると、何やらむぐむぐ舌だの歯ぐきだのを総動員して食べた。この作業は結構好きだ。一心不乱に食ってる様子は微笑ましい。いろいろ散らかすけど。ちびのくせに最初は遠慮でもしてたのか、おとなしくされるがままだったのにここ数日は自分でスプーンを握って食べようとするのも可愛らしい。どうやら手と口の位置関係がわかってないらしく、頬っぺたにスプーンぶっ込んではビックリしているところなんか笑っちまう。
 金時は器用にも自分も同時に飯を食ってるらしいが、俺は食わせるので精一杯だ。食わせたら風呂に入れて、着替えさせて、床掃除して寝かしつける。自分の食事なんてその後だ。母親という生き物がよく絶滅しないものだと感心する。こんな目に遭ってなお『もう一人ほしい』なんて思える神経がわからない。
 結局日課が終わったのがいつも通り十二時過ぎで、カノジョ対策なんぞできたもんじゃなかった。諦めて俺はベッドに倒れ込んだ。




 まずい、寝過ごしたと気づいたのはもう十時を回ったころだった。金時が来てない。
 とにかくガキに飯を食わせないと。俺を起こす原因となったベイビーは、空腹やなんかでギャアギャア泣き喚いていた。慌ててオムツを替える。こんなときに限ってデケェほうって嫌がらせか。

(ああ、いつも金時がやってくれてんのか)

 手伝ってもらってる分際で文句を言うのは間違ってるとは思うのだが、金時の不在が重くのしかかる。少し機嫌を直したちびをベビーベッドから下ろし、朝食を作るべく慣れないキッチンに立った。
 離乳食の本と首っ引きで芋を茹でたり肉団子を捏ねたり。自分のなんぞ構ってる場合ではない。
 卵粥、でいいのか? そういえば金時が食べさせたらいけないものについてなんちゃら言っていた。その辺にメモ貼っといてくれ、なんて生返事してよく聞いてなかった。
 どうしよう。

『十四郎!? ごめん、寝坊しちまって……これから行く!』

 留守電から金時の声が流れてきたときは、安堵感ハンパなかった。でも、直後に掛かってきたもう一本の電話に、俺の背筋は凍った。

『土方くん? 午前中の授業出てないからどうしたのかなーって。ちょっと早いけどこれから行きまーす』

 どうしたらいいんだ。つうか、どれから手ェ付けたらいいんだ。ベイビーは不機嫌だし飯はどれ食わせていいかイマイチ不安だしカノジョは今にも来そうだし、

 ――金時はいないし。

「おい、腹減ったよな?」
「あーぶー」
「腹が減っちゃ戦はできねえよな」
「あぽー」
「まあ、てめーはちびだし女だし、戦する必要もねえだろうけどな」
「もふ」

 こいつが先だろうな。
 金時に聞こう。
 子どもを抱き上げて金時に電話した。同じことを何度も説明してくれただろうに、金時は怒りもせず、丁寧に教えてくれた。卵は入れちゃいけないらしい。肉も大量に食わせちゃマズイらしいから、あれは俺の腹に収めることにした。

『ほんとごめん。バナナなら食べられるから。俺が後そっちで作るから。ごめんな』

 金時は電話の向こうで何度も謝った。
 おまえのせいじゃない。おまえが謝るな。
 俺が、おまえに頼り過ぎてたんだ。

「バナナ食ってろってよ。悪いな」
「うきゃ」
「今度はちゃんと作るから」
「あー」

 小さいながらも何か足りないと思うらしく、不思議そうな顔をしている。いつもの必死で口を動かしてる姿が見られなくて、それは全部自分のせいだと思い知って、ベイビーにも金時にも申し訳なくて、鼻の奥が痛くなった。



 ぴんぽーん、



 カノジョのこと、忘れてた……!
 ヤバイ。もう、取り繕い様がない。
 つか、取り繕う気が失せていた。人間、食う物を食わないと気力も萎えるのだ。大人の俺でさえそうなのに、こんなちっさい子どもに空腹を強いたことに、俺は思った以上に凹んでいたらしい。

「何それ」

 ドアを開けたときの、カノジョの第一声はもちろんそれだった。
 姪っ子を預かっていると説明しても、疑わしそうな顔をするばかり。飲み物買って来たよ、とコンビニ袋を床に置いた。

「そこに置くな」
「なんで?」
「煙草入ってんだろ。手の届くとこに置くな」
「……買ってきてあげたのに。ありがとうとか、ないの?」
「ありがとう! で、台所に置いといてくれ」
「いっけど。あ、ご飯食べた? たこ焼き買って来たよー、マヨネーズ多めに」
「それもこっちに置くな!」
「食べちゃえばいいでしょ」
「じゃあ、その間この子見ててくれ」
「えー、無理。怖い」
「じゃあ俺は手が離せねえから食えねえ」
「ちょっと下ろせばいいじゃん」
「こいつも食っちまうだろ!」
「ダメなの?」
「ダメだ!」


 なんだなんだ。
 大人が一人増えたから少しは事態が好転すると思ったら、悪化しやがった。煙草吸おうとするカノジョを換気扇の下に追いやり、むくれられ、ついでに料理しかけの肉団子の不恰好さを笑われ、こっちもイラッとした。イラッとしたのがカノジョばかりかちびにも伝わったらしく、あっちは口撃してくるしこっちは泣き出すし、


「十四郎、お待たせ……って、遅かったか」

 金時が来たときは、最悪の状況になってた。

「初めまして、十四郎の幼馴染のキンでーす……でもちょっと待っててね。この子にご飯作らないと。十四郎も食べる?」
「食べる」
「私のたこ焼きは?」
「食うけど、手が明かねえんだよ!!」
「せっかく買ってきてあげたのに!」
「だから! 俺は両手が塞がってんだ、見てわかんねえ!?」
「まあまあ。カノジョさんに抱っこしててもらえば……」
「こわいもん! だいたいなんで赤ん坊なんかいんの? 信じらんない」
「預かってるってさっきから言ってんだろ」
「この子のためにずーっと冷たかったんだ。なんなの?」
「なにが?」
「どういうつもりなのってこと!!」
「何がだよ?」
「ちょ、ケンカしない! 十四郎も腹減ってっからカリカリすんだろ、ほらあーん」

 不意に口元に突きつけられた物体を認識しないままに、金時につられて口を開けたら肉の味がした。

「ぱさぱさする」
「だろーね、ちょっと片栗粉少ないかな」
「直せるのか?」
「大人用にね。でも、子どもが先。でいいよな?」
「おう」

 そこでカノジョが固まってることに気づいた。

「どういうこと?」
「だから! 何が?」
「土方くんその人と……子ども育ててるの?」
「ああ、手伝ってもらってるけど」
「夫婦みたいじゃん!?」
「は?」
「なに今の!? あーんって私もしたことないのに!」
「そりゃな。したかったのか?」
「したかったとかそういう問題!?」
「じゃあどういう問題だよ」
「あっごめんね! 俺たち幼馴染だからつい……カノジョの前だったよね」
「俺は腹が減ってるんだ!」
「だから食べればいいじゃない! せっかく買ってきたのに台所に置けって、酷くない?」

 金時はずっと一点を見つめていた。俺もわかってはいた。俺が抱いてるベイビーだ。
 この子の前で争わないと決めたはずだった。この子がなぜここにいるのか、いつになったら帰るのか。そんな、居場所の押し付け合いみたいな会話はよそうと決めたばかりだったのに。


「あのね、俺ホストやってるんだけどさ」

 金時が不意に口を挟んだ。ずっと前から金時を知ってる俺には、金時の声がほんの少し低くなったのがわかった。

「今はプライベートだからね。ちょっと手の内明かしてあげる」

 完全にカノジョに向き合った金時は、確かに笑顔だったし口調も丁寧なのに、とても冷ややかだった。

「俺たちの中でもカンジのいいお客さんとカンベンなお客さんがいるのよ。そりゃ、どっちもきちんと対応するよ? でもね、内心早く帰ってくんねえかなぁって思うコがいるわけ。ぶっちゃけ」
「……」
「人それぞれだろうけどね。プレゼントとか、よく貰うのよ俺ら。けどさ、ホントに俺らのこと考えて選んでくれたのと、サービス欲しさに適当に選んで押しつけてきたのってわかっちゃうんだよね」
「……」
「もちろん顔には出さないよ? けどね。俺らのために買ってくれたのって、使い勝手がよかったり仕事で活躍したりするから、本心で嬉しいわけ。だからその子が来るとか来ないに関わらず、手元に置いてんの」
「……」
「そういうコに限って『使ってくれてる?』なんてわざわざ聞かないよ。むしろオイオイこれどうすんのってのくれるコのほうが、付けてるかどうかチェックしたりすんの。正直、面倒。気も遣うし」
「……」
「十四郎が手ェ離せないの、わかるよね? 食べたいのに食べられないって、俺が来てからだってずーっと言ってるじゃん。だったらさ、せっかく買ってきたのにって怒るんじゃなくて、食べられるようにしてやればいいんじゃないの?」
「……」
「俺が代わって抱っこしたらさ、ご飯作れないんだよ。だからちょっとごめんねって言ったつもりだったんだけど。小さい子だし、我慢できないしさ」
「……」
「十四郎のために来たんでしょ? 十四郎が動けるようにしてやってよ」


 無言が続いた。正確に言うと、俺はずっとベイビーの奴をあやしてた。ぐずぐず泣き出すのを何とか交わして外見せたり揺すってやったり、大人と口利いてないだけでずっとしゃべってた。こんな状況じゃなかったらいたたまれないだろう。でも、今に限っては話し相手がいてよかったと思った。

「要するに、なに? あなたは土方くんの、なんなわけ?」

 沈黙を破った言葉がそれだったことに、俺は失望もしたけど、納得もした。

「で、その子はどうすんの? いつまでこんなことやってんの?」
「こいつは俺の姪っ子だ」
「だから何なの? 育てるの?」
「さあな。でも、少なくともおまえより」

 わりと顔が好みだったんだけど、しょうがない。厄介事はひとつで充分。それに、楽しみがある厄介事のほうがいいに決まってる。

「こいつのほうがここにいる権利がある……飯食わせんの邪魔すんなら、帰れ」



 しょんぼりバナナ食ってるとこなんか、もう見たくない。美味い飯食おう。腹いっぱい。そんで、一生懸命食え。

「うー、あぶ」
「ほら、こわーい姉ちゃん帰ったぞ。たぶんもう来ねえから心配すんな」
「うー」
「金時兄ちゃんが飯作ってるからな。たまには三人で食おうぜ」
「あー?」


 金時が何か言いかけてたけど、ベイビーと話してたら引っ込めたようだ。
 ベイビーのぐずる声の合間に聞こえたのは、金時の独り言。


「あんな女にゃ勿体ねえ。やめとけ」



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