片時も離れないと言っても、煙草くらい一人で買いに出る。
 定食屋の女主人に会ったのも、銀時が風呂に入っている間に煙草を買いに出た時だった。

 あら、と女主人は目を瞠った。俺はといえば、長らく避けていた手前気が咎めて目を逸らしがちになる。

「言わなきゃいけないと思ってたのよ」

 女主人はいつものように人懐っこく朗らかで、しかし俺を逃がさない強い意志を持っていた。

「この前の土方さんのお酒。銀さんに飲ませてあげるって言ってたじゃない」
「……」
「銀さん一回も飲めなかったけど。あれは仕方ないのよ」
「……?」

 そこで初めて俺は、俺たちが去った後の万事屋の顛末を聞いた。



 予測していたはずだった。指名手配が掛かるだろうと、俺は予告までした。だが、それでもあの男は、万事屋は、苦もなく乗り越えて平気な顔でいつも通りを強引に通すだろうと、俺は高を括っていたのだ。万事屋に、ではない。当時の状況に、だ。
 俺たちが地球に帰ったとき、きっと万事屋は何事もなかったような顔で、俺たちを迎えるのだろう、と。


 急いで部屋に戻る。案外長風呂好きな銀時は、俺が出かけたことなど知る由もない。
 言えばいいじゃないか。指名手配されて、おちおち飲みになんぞ行けなかったと。忘れたわけじゃなかったと。
 いや、おまえホントに忘れてるよな。

「とうしろ、一緒に入ろってば」

 忘れてくれていい。
 お前の状況に一片の思いも至らず、ただ自分を哀れんでいたことなど、俺も忘れるから。
 あの日、お前の血と肉をこの腹に納めた。
 きっとその血肉が、俺に教えてくれたんだろう。お前はたぶん、これからも細かいところでいろいろ間違う。俺はきっといちいちそれに気を揉む。

「入りてえなら先に声掛けろ」

 風呂場に向かって怒鳴ると、のぼせちゃうから早くしろよ、とヒトの話をまるで聞いていない返事だ。思わず笑って、急いで支度をする。

 たとえ小さな行き違いがあっても、お前が決して大筋では間違わないことを、俺の血と肉は知っている。
 それに、俺の血肉もあの体に息づいているのだ。
 向こうもきっと、俺が思い通りにならないとため息をついているだろうよ。



 それでも俺たちは、もう二度と離れることはない。





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