アンハッピー・バースデイ


「悪かったって言ってんだろ……いい加減にしろよ」


 坂田は無言だ。
 もう二週間も経つ。いい加減機嫌直してもいいだろう。こっちももう、疲れた。



 俺の誕生日は祝日だ。毎年近藤さんが主催で、集まって飲み食いする。ケーキだとあんまり興味はないんだが、この日は柏餅という、俺にとってはラッキーなアイテムがあるのだ。
 味噌餡のヤツにマヨネーズをかけて食う。美味いんだこれが。最初は市販の柏餅にマヨネーズかけて食ってたけど、今年は近藤さんのお母さんが手作りでマヨ味噌入りのを作ってくれた。そこで俺はワクワクしながら出かけたわけだ。
 銀時には前もって断ってあった。俺の誕生日は、近藤さんちでやるから一緒には過ごせない、と。一緒来るか、と聞いたけどその時にはもうブンムクレでそんな雰囲気じゃなかったし、次の週の土日のどっちかにしようと持ちかけたが鼻で笑って無視された。
 だいたい俺の誕生日なんだから俺の好きに過ごしてなにが悪い。イラッとしたから、じゃあ勝手にしろと言い捨ててその日は別れた。そして今日に至る。

 最初の二、三日は顔も見たくなかった。ていうか連休だったから顔なんぞ見なくて済んだ。休み明けの学校は気が重かったがこれは連休が終わったせいであって銀時のせいではない。断じて違う。
 ――と自分に言い聞かせて家を出たものの、途中で合流するはずの銀時……坂田は姿を見せなかった。坂田が見当たらないことで、俺の気持ちは一層沈んだ。
 教室に入ると坂田はもう来てて(こいつが俺より早く登校するなんて滅多にないことだ)、クラスメイトと連休話で盛り上がっていた。どうやら坂田は例の国に行ったらしい。誰とだ。羽目外してねえだろうな。大雷山止めたりしてねえだろうな。
 坂田の席は俺に近いから座ってりゃそのうち来るだろうし、そうしたらこっちから話しかけようと思ってた。

 でも坂田は担任が入ってくるまで席に着かなかった。

 ゴールデンウイークは終わったぞ坂田、とかなんとか、テンプレな注意をされても坂田はしれっと『すいませーん脳みそを夢の国に忘れて来ましたー』なんつって反省の色もない。結局めちゃめちゃ怒られて、一時限目に使う資料を職員室に取りに来い、と言われた。だから坂田は一時限目が終わるまで、俺と話す暇がなかった。
 休み時間なら、と思っても坂田はすぐ立ち上がって教室を出た。便所かもしれない。次の休み時間は教室移動で、坂田は何かを忘れたらしく隣の教室に借りに行ってしまった。午前中最後の休み時間も教室移動だからチャンスだと思ったのに、今度は俺が近藤さんに呼び止められて、実験器具の片付けを手伝わされた。昼休みに少し食い込んじまって急いで教室に戻ったが、坂田はいなかった。

 二日目になって、これは避けられてるとしか思えなくなった。
 原因はアレに違いない。違いないが、高校生男子として少しこだわり過ぎじゃないか。たかが誕生日だろ。しかも俺の。
 お前の誕生日を是非とも祝ってくれって言われたのに『いや近藤さんのおばさんがマヨ味噌柏餅作ってくれるから』って断ったんなら少しはわかる。少しだけどな。誕生会なんてこっ恥ずかしくないのか。俺のは節句だからまだ言い訳できるけど。
 それですらだんだん気恥ずかしくなってきて、今年なんかマヨ味噌がなかったら断ろうと思ってたくらいだ。近藤さんちには何年も通ってるからおばさんが少しガッカリするかもしれない、なんて変な気を回したのが仇になった。いや、マヨ味噌は捨てられない。何より優先されるべきだ。坂田のバカ。

 と、五日目くらいまでは自分を奮い立たせて坂田に怒りを燃やした。頑張った。絶対目が合ったはずなのに見なかった振りされても、俺も見てねえぞって振りを仕返した。俺の隣のヤツにはフレンドリーに話しかけるくせに用事が終わったら俺には目もくれず立ち去っても、俺だって全然用事ないわボケェって顔が出来た。

 でもそのまま週末を迎え、次の週に入って何日目かの午後に、とうとう心が折れた。


「さかた、」


 何日ぶりに話しかけただろう、と心の中で指折り数えながら、俺は坂田の席に近寄った。

「なに」

 坂田は無視しなかった。けれども底冷えする声で事務的に応えた。

「悪かった」
「何が?」
「あの……、後で話したいから」

「トシ! あっ居た居た。今度の試合のオーダー決めたいから放課後残れる?」

「……ッ!」

 なんて間の悪い。
 坂田はマヨ味噌以来、近藤さんにも冷ややかだ。坂田と話そうとして持ちかけたのに、その時間を近藤さん(いや剣道部なんだが)に取られたら、坂田はますます機嫌を損ねるだろう。
 でも、坂田なら後で時間を作ってくれるんじゃないか。
 なんてちょっとでも考えた俺が馬鹿だった。

「ダメそうじゃん? さすがに終わるまで待ってるほどお人好しじゃねーわ俺も。今言うかその話ってのはナシにするか、どっちかにして」
「!」
「近藤のが優先だろ? 悪ィけど俺はちょっと」

「あれ? どしたの。話し中だったか。ごめんごめん」

「いいよ。終わったみてーだし」

 近藤さんが寄ってきて、俺と坂田を交互に見る。坂田は『もう話すことはない』という意志も露わに席を立つ。
 思わず坂田の腕を掴んだ。
 そして、言ったんだ。

「悪かったって言ってんだろ……いい加減にしろよ」

 坂田は無言だ。
 数えてみたらもう二週間も経ってた。いい加減機嫌直してもいいだろう。こっちももう、疲れた。
 疲れ果てた。



 しばらく無言で睨み合う。近藤さんが驚いて、間を取り成してくれようとしたけど俺たちはどっちも良く聞いてなかった。少なくとも俺は聞けなかった。近藤さんの好意を無にした坂田にムカついたし近藤さんを嫌う坂田にムカついたし近藤さんが祝ってくれた祝日に汚点をつけた坂田にムカついたし……、
 とにかく坂田にムカついたから。それでも坂田との仲を取り戻したいなんて考えてる自分が一番ムカつく。


 これは、きっともう、俺の知ってる坂田じゃない。


 俺を好きだと言ってくれて、大事にするって言ってくれて、大事だからセックスしたいけど我慢してくれて、いざするとなったら恥ずかしいくらい甘やかしてくれて、ヤキモチ妬いて面倒なこともあったけど、すげえ優しいキスしてくれた、
 あの坂田じゃないんだ、もう。


「もう、いい。終わりだ」


 疲れた。本当に。
 何が疲れたかって、俺は坂田と前みたいにじゃれ合ったり喧嘩したり真面目な話したりしたいのに、坂田はそう思わないことに。坂田がいい加減折れて、またじゃれ合ってくれればいいと願うことに疲れた。こっちからアクションして冷たくあしらわれたらどうしようとか、喧嘩になってますます気まずくなったらどうしようとかビクビクするのに疲れ果てた。

 アクションはした。冷たくあしらわれた。

 結果は出たんだ。
 もう、いい。
 坂田の腕から手を離すとき、ああこれで坂田との関係を手放すんだな、と思ったら鼻の奥がつーんとしてきた。

「近藤さん、待たせて悪ィ……放課後な。部室、行くから」
「ほら。オメーは悪いなんてこれっぽっちも思ってねえじゃん」

 坂田が口を開いた。
 もうやめてくれ。お前が何か言えば言うほど、俺はわずかな期待を抱いてしまう。このまま会話を続けたら、もしかしたら前の坂田に戻ってくれるんじゃないかと。
 ああ、ここが学校じゃなかったら。
 せめて教室じゃなかったら、『坂田』なんて呼ばないで『銀時』って呼べて、それから抱きついて泣けるのに。
 ちょっと悔しいけどな。
 でもここは教室で、クラスメイトも見てるから、俺は一歩も動けない。泣くことすらできない。

「俺が何を怒ってるか、わかってねーだろ」

 もういい、知りたくもない。しかも現在進行形で言わないでほしい。お前が何か言えば言うほど以下同。

「トシ、何かごめんな! 坂田も割り込んじゃったみたいで、ごめんっ」
「みたいじゃねーよ、割り込んでんだよゴリラ」
「えっ、ゴリラは関係なくね? まあそれは置いといて、俺のほうは今日じゃなくてもいいからトシ、今日は」
「空いてるっつってんだ! 早く決めたほうが選手になるヤツだって心の準備が出来んだろ、今日の放課後だッ!」
「トシ……意地張るなよ。な?」
「あのさぁ、二人でやってくんね? さすがに目の前でやられると不愉快通り越して殺意を覚えるわ」
「ちょ、坂田も落ち着けよ」
「オメーはこいつとイチャついてれば満足なんだろ?」


 考えるより先に手が出てた。右フックを気持ちよく振り抜いた。坂田は派手にひっくり返ったが、すかさず立ち上がって俺の襟首を掴んだ。凄い握力だが負けてたまるか。俺も坂田の手を掴んで、俺たちは至近距離で睨み合った。
 この紅い目が、二週間までは優しく笑いかけたのだ。俺が掴んでるこの手は、二週間までは壊れ物を扱うように俺に触れたんだ。

 今はこんなに違う。

「坂田、さ」

 近藤さんの声が意外に近いな、と思った途端、俺は坂田と一緒くたに床に倒れていた。近藤さんが坂田をぶん殴ったんだ。
 俺たちを見下ろしながら近藤さんは言う。

「じゃあオメーは何が不満なんだ。トシにちゃんと言ったんだろうな」

 坂田が近藤さんにも飛び掛かりそうだったから、坂田の手をより一層強く掴んだ。近藤さんは案外落ち着いてて、坂田を真面目な顔で真っ直ぐ見つめた。

「トシに聞いたほうがいいかな。坂田はなんで怒ってんの? わかってる?」

 近藤さんには言いにくい。あんたが招いてくれた会のために俺と坂田が仲違いしてるなんて、言えない。
 黙ってしまった俺を見て、近藤さんは『わかってない』と解釈したらしかった。

「坂田もちゃんと言ったほうがいいんじゃね? いくら仲良くても以心伝心てわけにゃいかねえこともあんだろ」
「んなの、初めっから言ってんよ。だいたい発端はてめーだゴリラ」
「はあ!? 俺ェェ!?」
「違う! テメーが我が儘ぶっこいたのが発端だろが!? 人のせいにすんじゃねえ!」
「あーごめんね大事なコンドーさんの悪口言って。でも我が儘じゃないから。それは認めねーから」
「勝手にしろ!」
「ちょ、待ってトシ。坂田も。俺が絡んでんの? マジで?」
「絡んでるどころか元凶だよ」
「違うっつってんだろ!」

 高杉が寄ってきて、やっと俺たちは周りを見た。ここのクラスは心が広いっつーか無神経っつーか、殆どの奴が自分の机を避けただけでそれぞれ自分のしたいことをしているだけだった。ああ、それでこんな狭いとこで殴り合い始めた割に床に転がったのか。なるほど。

「見苦しいぜ銀時。もっかいアッチの国に行くか?」
「……ふざけんな」
「まあ、またテメェだけお一人様シートだがな。俺は万斉と乗る」
「チッ、」
「あんま派手にやるとさすがに教師も黙っちゃいねえと思うが、テメェは良くてもソッチの二人は試合があるらしいじゃねえか」
「……」
「ククッ、部長と副部長がこのザマじゃあ、出場停止になんじゃねえのか? 俺には関係ねェが」
「じゃあ土方くんが離してくれればいいんじゃないかな。吹っかけてきたのは土方くんでしょ」

 緩い目をしててもわかる。坂田は本当に怒ってる。本当は俺を殴ってボコボコにしたいって顔してる。
 そんなに憎まれたのか俺は。たった二週間で、これほどにも。
 怒りよりも情けなくて、悲しくて、坂田の顔を見たくない。掴んでいた手を離すと、坂田はゆらりと立ち上がって、後ろ頭を掻きながら教室を出て行った。

「解説して欲しきゃァ次の授業サボれ。体育だしちょうどいい」
「何がちょうどいいんだ!?」
「サボり初心者でもやりやすいだろうって気ィ使ってやってんだ、有難く思え」
「……だが、さか」
「銀時は授業自体出ねえだろうぜ」

 高杉のほうが坂田の行動を把握している。高杉なら坂田をこんなに怒らせずに済んだのかもしれない。坂田にとって、高杉のほうが、


「いい。俺は授業に出る」


――後から坂田の気持ちを解説されたって、もう取り返しがつかない


 高杉はフン、と鼻で笑ったが、それ以上何も言わなかった。








 部室に行くとすでに近藤さんが来て待っていた。珍しい。ちなみに体育は雨のため中止。体育館も取れなくて、教室で授業になった。ほとんど聞いてなかったけど。いつの間にか休み時間になってて、いつの間にか六限になってた。

「あのな。オーダーは俺と顧問で決めとく」

 俺が座るなり近藤さんがそう言ったので、かなりカチンときた。
 だったら教室で教えてくれればいいだろう。しかも坂田との最後の会話を遮ってまで俺を引き留めたのに、なぜ俺と話し合わないのだ。
 もう、誰にどれから文句言えばいいのかわからない。正確に言うと、どれが八つ当たりでどれなら少しは許されるのか、まったくわからない。

「俺が体育サボったの、気づいてないだろう」
「……!?」

 近藤さんの真顔と発言に驚いた。どんだけぼんやりしてたんだ俺は。つうかナニ偉そうに自慢してんだ、ダメだろ。

「高杉と喋ってた。あいつけっこういい奴な」

 近藤さんは二カッと笑顔を見せる。でも俺にはそんな余裕もないし、正直今は高杉のタの字も聞きたくない。

「悪ィけど、オーダーの話じゃねえなら帰……」
「ちょ、待って! ごめん。俺のせいだったんだな! そりゃ坂田怒るわ。今までトシがフリーだったから思いも付かなかった、ごめん!」

 よく意味がわからない。
 近藤さんまで高校生男子の誕生日がうんぬん言い出すのか?

 ん?
 近藤さんがそれを言ってもおかしくない。だってそれはほんの小さい頃からの習慣で、節句は近藤さんちで総悟やミツバやなんやらと柏餅を食うって、それは決まり事だった。だから近藤さんはおかしくない。
 坂田は違う。今年、こういう間柄になって初めて節句が来たんだ。勝手に。俺は例年通り過ごしただけだ。イレギュラーは坂田だったのだ。

「アンタが悪いんじゃねえ。アイツの頭が悪いんだ……俺は、おばさんの柏餅食べられて嬉しかった」
「もう! わかってないなトシは!」

 近藤さんは机を叩いて立ち上がった。本物のゴリラみたいだと思ったのは内緒だ。

「俺らは別の日にしても良かったの! トシの誕生日って、もう、なんつーか……恒例行事? そんなかんじだったから、ついいつも通りやっちゃったけど! この先一生俺ら集まって柏餅食える訳じゃないだろ? いつかそれぞれの大事な人と過ごすことになるじゃん!?」
「……?」
「けっこうニブイなトシ! イヤ俺が言えた義理じゃないんだけど。お前には坂田がいるだろ? 坂田はオメーが大事だから、オメーの『生まれた日』を楽しみにしてたんだよ! 俺たちみたく、惰性じゃなくて!」
「だせい……?」
「あっ、祝う気がない訳じゃないからね!? でもさ、俺らはどっちかっつうとまたこの日にいつものメンツで集まれるって楽しみなわけ」
「おんなじじゃねえか、坂田と」
「坂田はもっと、あれ、高杉が言ってたのなんだっけ、アレだよ……『特別な日だった』。坂田の記念日だったんだって」
「は? 俺の誕生日だろ」
「うーん……お妙さんの誕生日。俺は嬉しいよ。あの人が生まれてきてくれて。お妙さんにとってはただ歳取る日かもしんないけど」
「……」
「新八くんがお妙さんの誕生日喜んでんの、見たことない? なんで自分の記念日でもないのに、お姉さんの誕生日が嬉しいの?」
「……!」
「お姉さんが生まれてきたからだろ? しかも自分のお姉さんとして。それが嬉しいからだろ?」
「……」
「坂田は嬉しかったんだよ。お前が十八年前に生まれてきて。けど俺のせいで、トシは普通の日、ってまではいかないけど、そんな特別な日って思わないで過ごしちゃっただろ」
「……でも、」
「それで怒ってんだよ。高杉に言われて気づくなんて俺も大概だけど、トシもニブチンなら坂田も頑固すぎ! もうちょっと話し合えばいいだけだって! あっ、それも俺がチャラにしちゃったんだよな、ごめん……ホントにごめんッ!」

 近藤さんは、今度はガタンッと派手な音を立てて座り、机に額を叩きつけるように頭を下げた。やめてくれって言ってもしばらくやめなかった。

「俺は……近藤さんちに行って、楽しんだことにケチつけられたのが気に食わなかっただけだ。アンタのせいじゃねえから、やめてくれ」
「もしそれが本音ならさ、トシ」

 ようやく頭を上げた近藤さんは、静かに言った。

「坂田に謝れ。それがトシの本心なら、俺はトシが悪いと思う」




 今さらどうやって謝れというのか。
 坂田は俺を拒絶した。おそらく、この先ずっと。
 坂田がもし、本当にそんなふうに思ってくれていたのなら、俺はその想いをキチンと受け取らなかった。ごく軽い気持ちで、また今度な、とあしらった。
 坂田は『当日』にこだわったんだ。別の日じゃなく。つき合って初めての誕生日だから、当日を一緒に、と願ってくれたんだ。

 でも俺はそれを見抜けなかったし、今の今まで坂田の我儘を責めてた。今でさえ、だったら言えよと思う。
 それは俺の器量が狭いからだろう。坂田の想いを受け取る、キャパがなかった。それだけ。
 今ごろ『近藤さんに解説されてやっと気づきましたごめんなさい』なんて言ったって坂田が喜ぶ訳がない。
 もういいんだ。坂田が遠く離れて行くのは…….辛いけど。つらい。行かないでほしいけど。また坂田とくっついて、笑って、キスしたい。坂田の髪に触りたい。
 でも、坂田はきっと、そう思ってない。もう。

「いいんだ。もう済んだことだし」

 さかた。銀時。ぎんとき。
 本当に、大好きだった


「よくないから泣いてんだろ。俺が連絡しても坂田出ねえから。高杉が呼び出しといてくれたから。行ってきな?」
「……うっ、」
「ホラ洟かんで。イイ男台無し。来年からは別の日にやるってかーちゃんに言っとくから」
「らいねん……」
「そうだよ。坂田がこんなんでトシのこと嫌いになるわけないじゃん。な? 心配しないで、行ってこい」

 近藤さんに聞いた場所に行くと、坂田……ぎんときが、もう居て、

「十四郎!? どうしたの!?」
「ぎん……ッ、おれ、」
「ごめんね。ごめん。十四郎の大事な日、俺がぶち壊して。もっと気持ちよく祝ってやれば良かった。ごめん」
「……!!」
「引っ込みつかなくなって。酷いこと言ってごめん。せっかくの誕生日でこんなに泣かしてごめん。ホントに……ごめんなさい」

 まだ明るいのに人目を気にせず銀時は俺を抱きしめてくれて、


――ああ、人に愛されるってことは自分を大事にするってことでもあるんだ








「相変わらずドS極まれりだなァテメェは。あのまま別れちまったら俺と万斉が迷惑だから、ほどほどにしやがれ」
「ほどほども何も、俺ァなんにもしてねーぜィ? ただあんこの柏餅食ってただけで」
「なんにもしないからマズイんでござる。注意してやれば良いであろう」
「何の注意だかさっぱりわかんねーや」
「イヤだから、誕生日は恋人優先させてやれと近藤に……もういいでござる、なんか疲れた」



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