5 万事屋に帰るのは昼前ごろだ。新八には文句を言われる。神楽はあまり何も言わない。新八の小言をやり過ごして、夕方まで少し眠る。来客があるときは仕方ないから起きているか、俺が必要ないときは外に出る。 どちらにしろ夕方にはまた外に出て、ネオンが灯りつつある街をぶらつく。しつこく引っ張られて辟易したときは、いつもの飲み屋に行く。土方がいる、いつもの飲み屋に。 それが俺の日課だった。 「……ん。銀さん、聞いてます?」 「んあ?」 ぼやっとテレビを眺めていたら新八にまた怒られた。さっきからずっと呼んでいたらしい。半分眠っていたからそりゃあ気づくわけもない。 「もう! せめてヒトの話くらい聞いてくださいよ」 言い返そうとして、やめた。なんて言えばいいのかわからなかった。 「神楽ちゃんの部屋の話ですけど、」 「? 押し入れは無理って話なら聞いたぞ」 「そんな話はとっくに済んでるでしょ! ほんと何も聞いてねーだろアンタ!」 「?」 「押し入れじゃなくて。神楽ちゃんが新しく部屋借りるか、僕んちの余った部屋に引っ越して通いにするかって話です」 「……なんで?」 「その話もしました! ちゃんと目ェ覚ましてくださいよ、この話の間だけは――銀さん、眠れてないでしょ?」 「……」 「神楽ちゃんが部屋使い始めて銀さんの寝る場所なくなっちゃったせいもあるでしょうけど。家にも全然帰ってこないし、神楽ちゃんの寝床を別に確保しますから銀さんは部屋に戻……」 「いいよ。俺が出る」 ああ、そういうことか。 うっかりしていた。もうここは、俺の居場所ではなかった。当たり前だ。俺が捨てて、新八が拾った。神楽も帰ってきた。 だからここはもう、彼らのものだ。 眠れないのは場所のせいではない。だから気にする必要もない。俺は俺で好きにやるから心配するな。 そう説明しようとするのに、上手く言葉が出てこない。本当に彼らは気にしているだろうか。心配しているだろうか。そんな些細なことが気になって、この言葉の選択で本当に良いのかわからなくなっていく。 ああ、これでは新八のツッコミにボケ返すなんて、到底無理だ。どうやって彼らと会話してきたのだろう、俺は。 せめてこれだけだ伝えておかなければ。 「次の部屋見つかるまで、もう少し置いてくれや。そんなに掛けねえから」 長居はしない。お前たちの邪魔には、ならないから。そんな俺の意図は、きちんと伝わっただろうか。 新八がなにが言い出す前に部屋を出る。 今日はどこへ行こう。 土方は、今日も来ているだろうか。 前へ/次へ 目次TOPへ |