シたい、とヤケクソで懇願したら流石に驚いていたけれど、肯定されて俺のほうが驚いた。ホテルに連れ込んでも逃げる素振りもなく、抱きしめたら迷った末に、そっと背中に手が添えられた。これは本当にいいのだろうと判断した。
 だから俺は、土方を抱いた。
 これでこの男は俺のものだ。この男の隣に座る権利も、もっと言えばこの男と飲みに行く権利も、この男に触れる権利も、何もかも俺のものだ。もっと早くこうすれば良かった。いや、ずっと前からこうしたかったのに、俺は気づいていなかった。
 地球を離れると聞いたとき、それは尤もだと思った。それが一番いいと知っていた。それでも引き止めたくて、引き止めることができないのならせめてこの男の中に俺の痕跡を刻みたくて、無理やり俺の好物を食わせた。俺の分身となって土方の血肉として生き続けるように。本体である俺が死んでも、土方が生きている限り分身の俺は土方が生かしてくれるだろう。あの時はそれで満足だった。素晴らしい考えだと思った。
 思えばあの時から、否、あの時はすでに、俺は土方の唯一でありたいと願っていたのだ。そして今、その願いは叶えられた。
 すべてが終わって腕の中の土方を見下ろすと、土方は固く目を閉じていた。かすかに肩が震えて、慣れない動作を強いたことに多少の罪悪感が芽生える。

「大丈夫か」

 髪を撫でようとして、女じゃあるまいし土方はそんなこと喜ばないんじゃないかと心配になって手が止まった。土方は気配を察したのか、薄く目を開いた。そしてチラリと俺の行き場をなくした手を見遣って、鼻で笑った。

「……寝る」

 ひと言。土方はもう一度目を閉じて、やがて本当に寝息を立て始めた。その寝顔を間近に眺めながら、俺はどういう訳かその日はもう、土方に触れてはいけないような気がして、ただじっと見つめることしかできなかった。

 おかしい。
 何度身体を重ねても、土方が遠い。
 飲みに行く約束は相変わらずできないし、偶然鉢合わせても隣の席は埋まっている。俺にできるのはせいぜい土方が飲み終わるのを待って先回りし、偶然を装って声をかけるくらいだ。そこから宿に行くこともある。そのまま帰ることもある。帰るとしても屯所まで送るような甘ったるい展開にはならない。屯所と万事屋の分かれ道で、二手に分かれるだけだ。
 それに、最中だ。
 土方はいよいよ我慢できなくなると、きゅっとシーツを握る。俺の背中に腕を回させようとすると抵抗する。時に激しく、時にはするりと逃げ出す。そして甘く息を吐きながら身をよじる。
 きれいだ、と思わず口走ってしまったことがある。土方はうっすら目を開けて俺を見た。薄く開いた唇がゆっくりと横に引かれ、すぐに閉じられる。キモチイイ、のだろうか。イイ、と言おうとしたのだろうか。なに?と聞き返した時にはもう腕で顔を覆っていて、表情は読み取れなかった。
 男と寝るのは初めてなようで、土方の中に侵入するにはそれなりの手間がかかった。土方はそれを嫌がる。もういいから、と切り上げさせようとする。これをしなければお前の身体を傷めてしまうのだといくら説得しても、いいから、としか言わない。
 土方が傷つくのは嫌だ。痛い思いくらい慣れていると土方は嘯くし、刀傷に比べれば大した痛みではないのかもしれないが、俺は、土方にはもう、擦り傷ひとつつけて欲しくない。




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