さらに妥協案


 好いた相手の肌に触れたい、と思うのは自然なことではないだろうか。少なくとも俺にとっては当たり前のことだった。
 そこに異議を唱える奴――それが、今の俺の恋人である。

 今のっつーか未来永劫俺はコイツの恋人でいるつもりなんだけど。
 ていうことは、俺の認識を改めたほうがいいってこと? イヤイヤ諦めるな俺、なんらかの物体越しに愛する人に触れるなんて、そんな味気ないことしたくない。
 と、恋人である土方くんに訴えてみた。
 土方は困ったように眉を寄せて、しおしおと俯いた。

「恥ずかしい……」
「え、何が? なんで、どの辺りが?」

 心の中で叫んだつもりがまるっと口に出ていた。しまった。土方は、今度はムッと眉を寄せて俺を睨んだ。
 鬼の副長が眼光鋭く睨みつけている姿ってのは相当な威圧感があるはずなんだが、何しろ今の土方くんはほぼハダカな上にヒモみたいなパンツを履いて大股拡げてるところだ。威圧感なんてカケラもない。むしろ俺は噴き出すの堪えてるからね。
 Oバックとかいうパンツで、前はかろうじて隠されているが後ろガラ空き。Oってのはケツ部分がO型に空いてるからそう呼ぶんだろうけど、Oどころじゃない。枠しかない。障子の紙貼る前みたいだ。これを履くことになんの意義があるんだか、俺にはさっぱりわからない。
 でも、土方くんには意義があるようだ。このパンツを履かせろと俺に命じてものすごく潔く普通のほうのパンツを脱ぎ、形の良い脚を無造作に俺のほうに投げ出してきたときはどうしようかと思った。
 だってここラブホだよ。ベッドの上だよ。せっかく脱いだんだから脱ぎっぱなしでいいじゃん。なんでまた履くの。履いたらまた脱がせなきゃいけないだろ。面倒くせえとはさすがに空気読んで言わねえけど。
 面倒もそうなんだけど、こんな面積小さすぎるパンツといえどなんだか俺たちの間を遮られるような気がして嫌なんだ俺は。
 でも、土方くんは恥ずかしいんだって。恥ずかしいってなんだろう。こんな布切れとも言えねえモンあってもなくても、恥ずかしさに変わりねえ気がするんだよ銀さん。
 と言ったら土方は哀れなモノを見る目になった。

「まあ仕方ねえ、今すぐ変態チックな感覚が直るとは俺も思ってねえし」
「え!? 変態なの? 俺が?」
「当たり前だろ……つってもわかんねえか。だよな、ずっとそういうヤり方してきたんだもんな……」

 土方はぽんぽんと俺の頭を撫でてくれた。そしておもむろに両膝を抱え上げ、尻の間を俺に向けて拡げて見せた。

「ほら、脱がせなくてもできるから。な?」

 な?じゃねえよそのカッコのほうが恥ずかしいよ圧倒的に、エロいとこ丸見えだよヒクヒクしちゃってんじゃんお待ちかねじゃん、
 ゴクリ、と喉が鳴ったのは気のせいだと思いたい。でも、

「ここ、ちゃんと空いてるだろ」

 指で自分の入口に触れてみて、ぽっかり空いていることに安堵して。ほっとひとつ息を吐いて。

「なあ、見えるか? 履いててもちゃんと勃つだろ」

 俺の股間確かめて嬉しそうに笑って。

「ハダカじゃなくても、そっちのが普通……ぁんっ」

 もうどっちでもいいや。
 これはこれで唆るし、肌の感触は別のとこで味わえる。愛する土方は喜んでくれるし、悪いことってないんじゃないだろうか。ていうか確かにモロ見えより興奮するかも。



「な、ちゃんとヤれただろ? これからだんだん慣れていこうな、普通のセックスに」
「…………あれ?」

 どうやら俺は、まごうかたなき変態の一員になりつつあるらしい。




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