一線越え


 尻の肉に沿って左右に一本ずつ、縄を通す。それを引っ張ると、尻の谷間が強制的に拡げられる。

「み、見えるか……? おれの、」
「うん、まあ。見える」
「あッ、は、はずかしっ」

 土方くんは目にうっすら涙を浮かべて、綺麗に笑った。嬉しいらしい。
 もうだいぶ慣れた。見ろって言うからしょうがなく見るくらいには。今日も後ろ手に縛られ、M字開脚した土方くんは布団に転がっている。俺に見られて興奮したのか、縄と縄の間で薄桃色の粘膜がヒクヒクと蠢いていて、なかなかに艶かしい。
 そっと指で中心を突いてやると、土方くんはヒッと小さく叫んで背を反らせた。ただでさえ後ろ手に縛られているのにそんな格好したせいで、硬く尖った乳首が一層剥き出しになった。そこも指でつまんでやる。

「あ、あっ、や、それっ」
「ヤなの? じゃあ解いていい?」
「やっやだッ! 解くの、やだ」
「しょうがねえな。もう少しだけな」

 あんまり縛りっぱなしだと、肌に痕がついてしまう。見た目が可哀想だし、乞われてやったとはいえ手を下した俺としては心が痛む。それに、そろそろ普通に穏やかに抱き合いたい。手脚を縛られていると土方から俺に触れることができないし、俺はそんなの嫌なんだ。一方的に触るんじゃなく、俺は『抱き合いたい』んだ。

「なあ、もういい?」
「ヤダッもっと……もっときつく縛って」
「無理。筋とか傷めたらヤバいだろ」
「うう……じゃあ、乳首クリップで」
「ダメ。そういうのは使わない。言っただろ」
「足りない……ッ、もっと、ひどいことっしてほし、」
「ダメだ。俺はそんなことしたくない」
「ひぅん」

 否定されたのはそれはそれでキモチイイらしい。もうわからん、こいつのツボ。
 最初に戻って剥き出しの粘膜をもう一度指でなぞる。土方の身体がビクビク、と痙攣した。潤滑油を垂らす。もっと奥に触れる。土方の中は温かくて、俺の指をクイクイと引き込むように動いている。

「きもちい?」
「きもち、い……」

 うっとりと土方は囁く。前立腺の辺りを擦ってやると、小さく悲鳴をあげた。土方の最も男らしい器官が、気持ちいいと主張する。
 そこに触れようと手を伸ばしたとき、ピリピリ、と断続的な機械音が鳴り響いた。

 途端に、とろんと蕩けていた土方の顔がキリリと締まった。

「おい、ケータイ」
「……へ?」
「ケータイ取れ。ちょ、手! 邪魔」
「え? ああ、電話な、ちょっと待って」
「早くしろ」

 俺は慌てて土方から指を抜き、ケータイを土方の服の中から発掘して通話ボタンを押し、恭しく土方の耳に押し当てる。脚をおっ広げて恥ずかしいところを余さず曝け出して縛られたままの土方は、大真面目に電話に向かって話し出す。

「なんだ、どうした――あ? それくれえ予想の範囲内だろうが。なに狼狽えてんだ、手筈通り……待て、慌てんな。チッ、しょうがねえ、俺が行くまで目ェ離すな」

 こっちは電話の向こうなんか聞こえないからいつまでケータイ支えてればいいかわからない。ボサッとしてると舌打ちされる。

「もういい、早く解け」
「は?」
「早く縄解け、気が利かねえな」
「……おう、」
「聞こえただろ。屯所に戻る」
「あっそう」
「ちょ、急げよ動けねえだろ、ったく」
「……」

 縄を全部解くと、素っ裸なのにキリッと眉を寄せた土方くんが、ふんぞり返って隊服を要求してくる。

「靴下は? ベルトも」
「――はい、ここ」
「上着、皺になってる」
「そうだね」
「ちゃんとハンガーに掛けてほしい」
「……そうだね」

 どの口が言うか。
 『ぎんとき、はやく縛って』とか言いながら自分でバカスカその辺に脱ぎ捨てたの誰だよ。俺はちゃんとハンガーに掛けようとしました。『そんなのいいから早くっ、も、我慢できないっ』って俺にしがみついてきたの誰ですか。
 今回だけじゃないよね。わかってる。真選組の副長が、休暇をまるまる休めるとは限らないことくらいよーく知ってる。でもな、急な呼び出しのたびに早く縄解けって俺が怒られるの、おかしいと思わない?

「また来る」

 あっという間に上から下まできちんと隊服に身を包んだ土方くんは、とてもさっきまで自分から縛られてうっとりしてた人と同一人物とは思えない。どこから見ても鬼の副長、瞳孔カッ開いたアブないお巡りさんだ。

「ん、いってらっしゃい」

 送り出し、万事屋のベランダからしばらくその後ろ姿が小さくなるのを見守った。部屋に戻れば乱れた布団の上にはさっきまで白い肌を彩っていた縄が、無造作に放り出されていた。
 早く帰ってくればいいのに。
 理不尽な気もするけど、あの体に縄を掛けて解くのは俺以外にあり得ない。それが嬉しかったりもするあたり、俺も変態の域に足を突っ込みつつあるのかもしれない。




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