ため息 土方は珍しく正座なんかして項垂れている。俺はその前あたりに座っている。気を抜くとため息が十発くらい出そうになる。しおらしく正座してる奴の前でアレなんだが俺は万事屋のソファに座ってる。ソファの正面は当たり前にテーブルなんで、土方は肘掛の横に、こっち向きにちょこんと座る。そんなんいいからこっちに座れとソファを指したって聞きゃしない。 まあいい。どこでも座りたいとこに座ればいいし、正座しようが胡座かこうが本人の好きにすれば良い。それより問題はコレだ。俺と土方の間でさっきから蠢いているコレだ。 「あのな、」 意を決して口を開いたら、やっぱりため息が出た。土方はますます身を縮めた。 「コレいいから。こういうの……っつか新八たち帰ってきてコレさ、」 「すまねえ」 「うん。わかったからコレ、」 またため息出た。土方がびく、と肩を揺らす。それに連動してるんだがなんだか、『それ』がガタンと転がった。 『それ』って、まあ――気取ってもしょうがない。バイブだ。土方くんが急に取り出した上にスイッチ入れて放り出したバイブだ。 今日土方は定時に上がれる予定だった。だからウチに来るのは遅くとも午後七時ごろであるはずだった。けれども実際に来たのは午後九時過ぎ、リクエストにお応えして作っておいた晩飯もすっかり冷めようという時分だった。 そんなのはよくあることだし、土方の仕事柄やむを得ないことだと思っている。そりゃあ一報くれたほうがこちらとしては都合はいい。できないならそれは仕方がない。そういうもんなのだ、真選組は。それくらいわかってる。というか俺だけじゃなく、江戸に住む者ならほんの小さなガキだって理解できる理屈じゃないか。 「だからね、別に怒ってねえし飯だってあっためりゃいいんだし。こういうのいいから」 「それじゃ俺の気が済まねえ」 「うん、俺のために謝ってんだよね。じゃあ俺の言う通りにして。とりあえずコレしまって」 「いやだっ、これでお、お仕置き……してくんねえと、」 「……」 三度目のため息は躊躇なくでっかく吐いてやった。土方はヒッみたいな小さな悲鳴を上げて、より一層身体を縮めた。 あのな。 さっきっからチラッチラ見えてんだよ。 俯いてるフリして俺のこと見てるよねキミ。すっげえ期待満々の目で。隠してるつもりかもしんないけど、期待しすぎて首筋まで桜色に染まってるからね。息遣いも妙に湿っぽくて荒いしね。 つき合い始めて日は浅い。まさか土方とこういう関係になれるとは思ってもみなかったのに、その手を取れたからには大事にしようと心に誓っていた。だから夜も無体は働かず、大切に扱ってきたつもりだ。 もしかしてアレですか。キミはその気遣いが無用なクチでしたか。というかむしろ気遣い糞食らえでしたか。俺の気遣いはキミにとってはヌルいモンで、もっと……なんつーか、グイグイというか、えー、ブイブイというか、アレなかんじのほうが良かったわけですか。 俺にも恥じらいってモンはあるのよ、これでも。 もっとグッチャグチャにアレして欲しかったか、なんてあけすけに聞けねえよ。聞けそうなキャラだって自覚はあるけど聞けねえのよ、実際は。特に惚れた子には。 そんな俺を嘲笑うかのように、玩具は自分勝手に身をくねらせ、床に当たってはガタゴトとこれ見よがしな音を立てる。土方の目が、その卑猥な動きをじっと見つめ、それから俺へ、チラリと移動する。ゴクリ。土方の喉が鳴る。 もうどうしてくれよう、この変態ちゃん。 うぃん、うぃんうぃん、ゴトッ、 「はぁぁ……!」 目次TOPへ |