眠れない夜は長い


「まだ眠れねえ……」

 坂田が呻く。その瞼は今にもくっつきそうだ。というか、さっきから何度か意識が途切れている。見てればわかる。

「しょうがねえだろ。早くやっとかねえからいけねえんだ」

 炬燵で向き合う土方は、蜜柑を剥いて坂田の口に運んでやる。寝惚け眼でも土方の手は見逃さないらしく、坂田は素直に口を開けた。

「なんか新婚さんみたい。幸せ」
「アホか。さっさと終わらせろよ」
「もうやだ。俺休みなのに」
「俺に言うな」

 タイミングよく万事屋の黒電話が鳴った。土方が出ると、坂田の部下がいきなり叫び出す。

『トシさんすいません! どうですか、ウチの副長』
「よくわかんないです。代わりましょうか」
『イヤイヤイヤ! いいです俺としゃべってる間に手ェ動かしてほしいんで!』

 真選組の副長と土方が恋仲にあることは、すでに周知の事実である。今日は久しぶりに休みが取れたというので、万事屋に招いた。新八と神楽は『せっかくお休み取れたんだし、たまには二人きりでゆっくりしてくださいよ』と恒道館に行ってくれた。坂田の役職柄、逢瀬は久々だった。坂田の希望通り、外に行かず万事屋でまったりさせてやろうと準備万端整えたところで、坂田のケータイが鳴った。

『明日の会議の資料? そんなん知らねーよゴリラにやらせろ! は? なんで俺!? ちょ、待て来んなバカッ来ちゃダメーーーッおい聞け、』

 というような坂田の絶叫があり、十分もせずにパトカーが万事屋の前に止まった。

『これは! アンタの仕事ですっ! 三時間もありゃできるでしょ、ここでやっていいって局長が言ってました! 三時間したら取りに来ますからっ』

 顔なじみの地味な部下がグイグイと書類を押し付け、土方には目顔で謝りながら疾風のように去っていったのが二時間と少し前。すでに深夜を回っている。

「飲んじまう前で良かった。待っててやるから早くしろ」
「眠い。寝そう」
「寝るな! 何も食ってねえだろ、」
「うう……せっかく土方くんと久々の晩飯だったのに」
「まだ食えるから。頑張れ」
「頑張れない」

 話しかけないほうが手を動かすのには良いだろう。だが黙っていると坂田の目蓋はすぐにくっついてしまう。どうしたものか。
 考えている間にまた坂田の頭ががくりと下に傾いだ。またかよ。
 茶でも淹れてやろうと、炬燵から出ようとした。気配に聡い真選組副長はたちまち目を覚ます。

「どこ行くの」
「茶、淹れてやる」
「いらない。そこにいて」
「寝るだろ、お前」
「そこにいて」

 向かい側から脚が伸びてきて、土方の脚に絡まった。足先が土方の足首を探り、そこからツツ、と内側を上に辿っていく。

「おい」
「寝ない。そこにいて」
「でも、仕事」
「せっかく一緒にいるのに。せめて顔見てたいじゃん」
「でも、お前寝て」
「いいから。そこにいて」

 理不尽でしかもしつこいのは、眠くなったときの坂田の常だ。土方は仕方なく腰を据えた。すかさず足先は不埒な動きを始める。

「坂田」
「んー?」
「さかた、」
「うん」
「……ッやめ、」
「仕事なんかやめよっかな。俺明日休みだし、困んの俺じゃねーし」
「ちが、そうじゃな、んっ」
「土方くん待たせるの、俺もヤダ。俺が嫌だ」
「ッ、じ、じゃあ早くしろっ」

 早く仕事をして終わらせろ、という意味で言ったのだが。
 眠気に重く垂れていた坂田の目蓋が、キリッと上がった。

「そうだ、そうしよう。なんで早く思いつかなかったんだ俺、バカみてえ」

 炬燵布団を跳ね上げる勢いで身を翻した銀髪の副長は、たちどころに土方の背後に滑り込んだ。土方を包み込む腕、分厚い胸板、両脚。
 そうじゃない、と抗議しようとしたときにはすでに土方の首筋に唇が押し付けられ、片手がアンダーシャツのジッパーを下ろし、素肌に触れる。脚をばたつかせても坂田の両脚に絡め取られて動けない。動きたくない、のかもしれない。一瞬で全身に熱が篭る。
 好きにさせてやりたい。仕事は休みのはずなのに。でも、これは坂田の仕事だ。終わらせなければ坂田が困る。でも坂田の体温は心地よい。このまま身を任せたときの快感も知っている。でも、ダメだ。でも、悪いのは休暇中の人間に仕事させる真選組。でも、でも。
 ――坂田に触れられて嬉しい

「さか……っ」
「……」
「やめ、んっ、ちょ、」
「……」
「さかた、」

 ふやけつつある思考の中で辛うじて時計に目を遣る。果たして。

 かくして地味な部下がわざわざ屯所からかぶき町に出向いて目にしたのは、自分の上司が大の男を抱き竦め、肌を撫で回しながら居眠りしている様であった。


「副長仕事はーーーッ!? もうトシさんも流されんでくださいよ! って、やっぱりダメだったか。そらそうだよなチクショー」


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眠れない坂田と
万事屋トシちゃんが
炬燵で脚を絡める
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