眠れる夜叉 添い寝一時間、いや二時間かな。おいくらですか。 と、銀髪の副長が胡散臭い笑みを浮かべて言う。お金払えばなんでも頼めるんだよね、なんて言うから、ウチは未成年も働いてるしいかがわしいことはしないぞ、と、念を押したのにこの始末。まったく真選組はホモばっかりなのか。 「え、なんか誤解してね? 添い寝って、寝るだけね。寝るって……あー、スリープなスリープ」 嫌悪も露わに睨みつけていたら、向こうから言い訳してきた。嘘だ。そんな意味じゃなかったのに言い直したんだ、油断も隙もあったもんじゃない。 「イヤイヤほんとだってば。ちょっとひと眠りしたいんだって。もちろん刀は預けるし、ただ寝入りばなだけ傍にいてくれたらいいから。多分」 「多分てなんだ」 「うーん……目ェ覚めなければ、かな」 銀髪は曖昧に笑って片手で天パをかき混ぜた。よく見れば、いつもパッとしない顔だが今日は殊更に酷い。目の下にわかりやすく隈ができているし、肌も荒れて天パがいつも以上に跳ね散らかっている。 忙しいのか、と訊いてみればまたうーん……と歯切れの悪い答えが返ってくる。忙しくて、屯所にいては睡眠時間も取れないが故の依頼だろうか。でも、それなら添い寝である必要はないのでは。 「なんかさ、眠れなくて」 唇には笑みを貼り付けながら彼はそっと目を伏せた。 「たまに、あって。そういう時が」 ああ、お前も。 なんと言えばいいかわからなくて、顎で寝室を指す。依頼主は目を丸くして、ここでいいのになんてもごもご呟くのを、手を引き、背中を押して寝室に閉じ込めた。まごついて突っ立っているのをいいことに、手早く布団を敷き、その上に突き飛ばす。 「寝かしつけ、一回五千円です」 と言うと苦笑して懐から財布を出そうとするから、そうじゃねえだろうとばかりにジャケットを脱がした。 「寝かしつけられるかまだわかんねえだろ。起きてから払え」 「ソファで膝枕くれえでいいのに」 「充分贅沢だアホ」 そう言いながら銀髪の身体を締め付けるスカーフを取りベストを脱がせベルトを緩め、その隣に横たわってふわふわな頭を抱きしめる。 「大サービスじゃん」 「そうだな」 「撫でてくれたらもっといいのに」 「オプション料金つけんぞ、黙って寝ろ」 「うん……」 背中を抱き寄せられた。何か言うかと思ったが、銀髪はそのまますう、と寝息を立て始めた。 そうなってから、柔らかな髪に指を通してそっと梳る。 暢気な顔をしていても、夜叉の二つ名は伊達ではなかった。人を斬った後は何とも思わないのに、何年も経ってから眠れなくなることがある。土方にも覚えがあって、それは自分が弱いせいだと思っていた。 腕の中で束の間眠るこの男が弱いなどと、一度でも思ったことはない。共に戦ったことはないが、その剣先に迷いのないことはよく知っているつもりだった。 それでも。 剣を携え人を斬るということは、そういうことなのだ。 そしてこの男が、何くれとなく自分を気にかけてくれるのは。 『万事屋サンはさ、いいんだよ、そういうことしなくて。そういうのは、俺らの仕事』 だらしなく笑って人を煙に巻く物言いしかしないから、危うく見落とすところだった。 「そんなら俺は、テメェを寝かしつけるくれえしねえとな」 代わりに剣を振るうというのなら。 せめて、安らかな眠りを。 目を覚まさないようにと祈りながら、銀の髪を撫で付ける以外に、できることがあるだろうか。 「坂田と万事屋トシちゃんが添い寝する」 銀土スロット https://slot-maker.com/slot/6114/ 前へ/次へ 目次TOPへ |