大人の顔 クラスメイトと馬鹿話をしている顔。好物らしい甘い物を口に運んでは幸せそうに頬を緩めるところ。授業中に当てられたときの心底めんどくさそうな表情。 自分とはタイプが違うだけで、決して仲が良い関係ではないが、当たり前の同級生だと思っていた。 「ただ言ってみただけだっつーの」 今、目の前にいる男の顔はとても同年代とは思えない。大人びた、というより大人そのものだ。諦めに似た苦笑で何かを誤魔化しているに違いない。 「ンな顔すんなよ。ビビった? 土方クン」 いつもなら『ビビってねえ』と言い返して小競り合いになるところだ。だが今は言葉が出てこない。 ――俺、昔土方くんのこと好きだった 昔? 坂田銀時に出会ったのは高校に入ってからだ。間違いなく初対面だった。こんな色の髪や目を、忘れるはずがなかった。 ならば坂田の言う昔とはいつのことなのか。 馬鹿馬鹿しいと打ち捨てられなかった。土方の中で、形にならない何物かが坂田の言葉を気軽に受け流すことを咎めた。それで、アホかと言い捨て損ねた。思わずまじまじと坂田の顔に見入ってしまった。緩く開いた瞼。その下から覗く、思いがけず真剣な眼差し。切望と同じくらい、諦めを湛えた瞳。 ぶっ、と坂田は吹き出した。マジになんなよ多串クン、また明日な。くるりと向けられる広い背中、わずかに見える横顔。 ああ、見たことがある。 あのときも、自分は彼を追っていた。彼はするりと自分の手を抜けて、最後にわずかに振り向いて笑った。 切望と諦めの色を湛えた笑みを。 「よろずや、」 お前はこの世に生を受け、いつあの頃の記憶を取り戻したのか。もしやずっと一人で、二度目の生を、何食わぬ顔で生きてきたのか。年相応の顔を作り、平和な日常に溶け込んで。 そりゃ大人の顔にもなるよな、と心の中で苦笑いした。無意識に学ランの内ポケットを探っていて、今の自分も喫煙できる年齢ではないことを思い出した。 今度は、今の生では。 今度こそ、きっと二人で。 転生したふたり。 前へ/次へ 目次TOPへ |