桜の咲く頃(3Z) 君が初めてここに来たとき、桜はもう散っていた。 そして君が出て行く今、桜はまだ咲き切るには程遠い。 「春には咲くもんだと思ってた」 と君は言う。季節が巡ればきっと、桜は咲く。でも、満開の花を共に見るには、俺たちが共に過ごす時間は短すぎた。 「去年だけか。満開の桜見たのって」 もう何回も一緒に見たと思ってたのに、と君は屈託なく笑った。 今年の花を、君は誰と見るのだろう。新しい世界で、新しい出会いと希望に胸を膨らませて、花を見上げる暇もないかもしれない。 「入学式、終わったらさ」 今の君は迷いなく俺に手を伸ばすけれど。 「花見しようぜ。二人で」 今日と同じ日が続くと信じて疑わない君から、俺は卑怯にも目をそらす。 「時間、あったらな」 ――ああ、きっとこの花が咲く頃には、君の世界に俺はいない。 前へ/次へ 目次TOPへ |